さくら | わぁー、利佳ちゃん、お人形さんつくってるの? ホント、利佳ちゃんって、お裁縫お上手だね! |
利佳 | そ、そうかなあ。 |
知世 | 本当にお見事ですわ。 |
奈緒子 | でも、何となく誰かに似てるような... |
利佳 | [ぽっ...] |
山崎 | お人形というのはね、昔は 男の人が持つものだったんだよ。 |
さくら | ほえ? |
山崎 | そのころの人形は、人間にそっくりで、人間と同じ大きさだったんだよ。 |
さくら | なんで、そんな 大きなのを持ってたの? |
山崎 | いい質問だね。人の住んでないような極寒の大陸に長期間 探検に行く 男たちがね、自分の奥さんや、恋人がいなくて寂しいから、かわりに 人形を持っていったんだよ。 |
さくら | ふ〜ん。 |
山崎 | その人形には、奥さんや恋人を思い出させるための いい感じのしくみが あってね、それを使った冒険家は、それはそれは いい感じになったんだって。 ところが、ある冒険家は、そのいい感じがクセになっちゃって、冒険して いないときにも、人形と一緒にいるようになったから大変! また、ある日... |
千春 | はいはい、それぐらいにしましょうね。 |
奈緒子 | 今日の山崎くんのウソ、ちょっとわかんなかったね。 |
知世 | 千春ちゃんが止めてくれなかったら、危なかったですわ。 |
さくら | 今の、ウソだったのぉ?? |
千春 | 算数の堤先生が休んでたのは、赤ちゃんが生まれたからなんだって。 |
さくら | そうなんだ... |
奈緒子 | きっとかわいい子だろうね。 |
山崎 | 赤ちゃんって、コウノトリさんが運んでくるって知ってる。 |
さくら | ほえ? |
利佳 | でも、人間の赤ちゃんをコウノトリが運ぶって不自然じゃない? |
山崎 | そんなことないよ。コウノトリさんは、愛し合う夫婦に感謝の 気持ちを込めて赤ちゃんをプレゼントするんだ。 |
知世 | 感謝... ですか? |
山崎 | コウノトリさんは、世界中を周りながら、世界中の夫婦のことを 見守っているんだよ。それで、コウノトリさんが覗いた家で, 夫婦がいいことをしてると、それに感動したコウノトリさんが 閲覧料ってことで赤ちゃんをプレゼントしてくれるわけさ。 |
さくら | 閲覧料? ほえ? その、いいことってなぁに? |
山崎 |
知りたい? いけない子だねぇ、木之本さんは。 実はね... |
次の瞬間、千春が山崎のあごにパンチをして、山崎が後ろに倒れると、 千春は山崎を引きずっていく。 |
歌帆 | あら、みんなどうしたの? |
さくら | あ、観月先生。面白いんですよ。この鉛筆をほら。 |
歌帆 | あら、ユーカリの香りね。 |
利佳 | これはまた香りが違うんです。 |
奈緒子 | これもいい香りですよ。 |
歌帆 | えっと、ラベンダーにローズマリー... どうしたの? |
知世 | 実は、今度 母の会社の新商品として、売り出すんですけど、試行品を ちょっとみなさんに。 |
歌帆 | 色によって、香りが違うのね。 アロマテラピーの文房具か... |
山崎 | 香りってね、人の心に作用するって知ってる? ラベンダーは人の心を 落ち着かせるし、スイートオレンジは悲しみを吹き飛ばしてくれる。 ユーカリは、集中力を高めてくれるから、お勉強の前にはいいんだよ。 |
歌帆 | あら、山崎くん、 アロマテラピーに詳しいのね。 ところで、三原さんのは何の香りかしら? これはゼラニウムね。 これも、気分を落ち着かせる香りね? |
山崎 |
そうです。 先生、僕のも かいでみてください。 |
歌帆 | どれどれ... やっぱり、やめとくわ。 |
山崎 | あ、先生、ひどい。 そんなのえこひいきですよぉ! |
歌帆 | いやな予感がするの。 それ、クロロホルムでしょ。 |
山崎 | え... それは... どうしてそう思うんですか? |
歌帆 | なんとなくね。 |
千春 | ちょっとあんた、先生に何しようとしてんのよ。ちょっとこっち来なさい。 |
山崎 | あはは... いたたた! まだ、ウソ言ってないんだけど... |
千春 | 関係ないでしょ。 許さないんだから! |
その後、山崎は千春の手によって、自分が用意した鉛筆のにおいをかがされて, 眠らされた後、友枝図書館の近くの水路に投げ込まれたとか、投げ込まれ なっかたとか... |
知世 | おやまあ、またですわ。 |
さくら | どうしたの、知世ちゃん? |
知世 | [ノートパソコンを見せる] ほら、ここに e-mail が届いてるんですが、何の説明もなしに, 勝手にファイルが送られてきたんですの。 |
さくら | なんなの? |
知世 | これは、開いちゃいけないファイルですわ。きっとウィルスですわ。 |
さくら | ほえ? |
知世 | あらまあ、これを送った人は 寺田先生ですわ! |
その時、学級委員長 (山崎くん) 登場。 | |
山崎 | みんな、次の時間は自習だよ。 |
クラス | どうして? |
山崎 | 今、職員室は大変なことになってるんだよ。コンピュータウィルスとかで, 先生たちは大慌てだったよ。 |
知世 | やっぱり、寺田先生、開いてしまったのですね。 |
さくら | どういうこと? ウィルスとか開いたとか...? |
山崎 | つまり、職員室のコンピュータが病気にかかったってことなんだ。 病気って人から人に感染するでしょ? コンピュータの場合も、それと同じ ようにネットワークで感染するんだ。感染したコンピュータは正しく 動かなくなったりするんだけど、さらに、感染を広げようと、ウィルス 入りのメールをばらまいたりするからタチが悪いんだ。 |
さくら | じゃあ、寺田先生とか、知世ちゃんは? |
山崎 | 可哀想だけど寺田先生のパソコンは感染しちゃったね。大道寺さんの 場合は, 気づいてすぐに消したから大丈夫だよ。 |
さくら | よかったね、知世ちゃん。 |
山崎 | でも、喜ぶのは早いよ。 |
さくら | ほえ? |
山崎 | 職員室のパソコンは感染しているからね。 今、復旧しようと先生たちが がんばってるけど、あまり時間がたつと、人間にも感染することがあるんだ。 |
さくら | ほええ〜 |
小狼 | 抗生物質は効かないのか? |
山崎 | う〜ん、どうだろう。最近の病気だからね。ひょっとすると、李くんの香港の 秘薬でなんとかなるかもしれないけどね。 |
さくら | で、人間が感染するとどうなるの? |
山崎 | やっぱり、コンピュータと同じように、まともに働かなくなるんだ。 例えば、夜な夜なインターネットでディープな情報を収集したり、ヘンな話をつくってホームページに掲載したりとか... タチが悪いらしいよ。 |
さくら | こ、こわいね〜 |
山崎はみんなに手品を見せている。 | |
山崎 | ほら見ててね。このボールが... ほら。 |
さくら | ほえ〜 消えちゃった。 山崎くん、魔力あるんだ... |
知世 | 違いますよ。手品ですよ。 |
千春 | ったく、ホント芸達者ね〜。 |
さくら | 手品って、それどうなってるの? |
山崎 | おっと、タネは教えられないよ。 |
エリオル | 以外とタネは簡単なものなんですよ。知ってしまうと面白さ がなくなりますからね。 |
山崎 | さすが 柊沢くんだね。ところで、手品を考えたのはスリだったって 知ってた? |
さくら | ふるふる... そうなの? |
山崎 | うん。スリって、ポケットから財布とかを盗むよね。 いかに気づかれずに、素早く盗むかってのがスリの技術なんだ。 その技術を磨くために始まったのが手品なんだよ。 |
知世 | え? |
エリオル | そうなんですよ。上手い手品をやるためには、右手と左手のあらゆる 指を自由に操ることが大切ですから、それがスリに役立ったんです。 |
山崎 | だから、昔は手品なんかやってると、泥棒の疑いをかけられたり したんだって。 |
さくら | ほええ... |
山崎 | でも、スリってどんな人がやるか知ってる? |
奈緒子 | 貧しい人じゃないの? |
山崎 | でも、それだけじゃないんだな。 以外と、お金持ちが娯楽のために スリをしたりしたんだって。 |
知世 | 何となくわかる気がしますわ。 私も時々魔がさしそうになりますもの。 (おいおい... ^^;) |
エリオル | 中世以降は、手品は社交界に広まり、貴族たちの間に浸透したんですよ。 英国紳士も、ひとつの教養として、手品を身につけたりしたようです。 その反面、紳士たちの間にスリを助長することにもなりましたけどね。 |
さくら | そ、そうなんだ... |
山崎 | そうだね。偉大な手品師は、スリの名人だったりするわけだね。 |
知世 | 柊沢くんは、イギリス出身ですけど、手品とかおやりになるんですか。 |
エリオル | ええ、ちょっとだけは。でも、僕の場合は、スリとかじゃなくって, そっと、ものを差し上げたりするんですけどね。 |
千春 | ほら、聞いた? そこが 山崎くんと柊沢くんの違いよ! スリの話ばかりしてないで、ちょっとは人のためになることをしなさいよ! |
知世 | 柊沢くんの手品もちょっと見てみたいですわね。 |
エリオル | いえ、もうすでにやりましたから。 |
さくら | もうやったの? なにを? |
エリオル | それは内緒です。 そのうち、わかるかも... しれませんけどね。 |
さくら | ほえ? |
千春 | あれ? 山崎くん、ポケットから何か出てるよ。 |
山崎 | え? |
千春 | なによ?! これ、女の人の下着じゃない?! スリどころか、下着泥棒じゃない!! |
山崎 | ちょっと待って! これは知らないよ。 |
千春 | ウソおっしゃい!! もう、許さないんだから! |
山崎 | あ! ひょっとして柊沢くんが。 |
千春 | 柊沢くんがそんなことするわけないでしょ! こら!! 一体、誰の下着盗んだのよ?! 白状しなさい。 |
山崎 | うわ! たすけて! |
エリオル | くっくっく。 (クロウの声色で) それは大道寺さんのですよ... |
千春 | あれ、家に忘れてきたみたい。 |
奈緒子 | なにを忘れたの? |
千春 | トンカチ。 |
この会話を聞いてほくそ笑んだ山崎はさくらのところに歩いていく。 | |
山崎 | ねえ、木之本さん。 サッカーってイングランドのスイカ泥棒が最初に はじめたって知ってた? |
さくら | それホント? |
山崎 | うん! ある日、スイカを盗んでいるところを、農民につかまってね、 スイカ泥棒は、後ろ手に手首を縛られたんだ。 でも、農民が目を離してるスキに 逃げ出したんだよ。 手首を縛られてるから、泥棒はスイカを家まで蹴って 持って帰ったんだって。 それが世界初のドリブルなんだ。 |
さくら | すごい才能だね。 |
山崎 | でも、農民はすごい頭に来てね、泥棒のすみかをつきとめて、 しまいにその家に火をつけてしまったんだって。 |
さくら | ほえええ... |
山崎 | 歴史によると、その農民が世界初のフーリガンなんだって。 |
さくら | ちっとも知らなかったよ。 |
その瞬間、千春が山崎に飛びかかって殴る。 | |
千春 | ウソよ、ウソ。 |
さくら | ウソだったの? |
山崎 | 千春ちゃん、トンカチを忘れてきたんじゃ...? [気絶する] |
寺田先生が教室に入ってくる。 | |
寺田先生 | 誰か、ここにあった金づち、どこいったか知らないか? |
エリオル | さっき三原さんが使ってましたよ。 |
さくら | はうう... すごい暑さだね。 |
知世 | 天気予報では、今日は35度になるっていってましたわ。 |
さくら | でもね、お父さんが言ってたけど、 昔はこんなに暑くなかったんだって。 |
エリオル | 地球温暖化ですね。 昔は今みたいにエアコンなんてありませんでしたが、 それでもそんなに暑いとは思わなかったんですよ。 |
知世 | あら? 柊沢くん、自分のことみたいに話しますのね。 |
エリオル | いえ... 別に意味はありませんよ。 |
山崎 | 地球温暖化は人類の文明が原因しているんだよ。 だから、最近は年々、地球の気温が上昇しているんだ。 |
知世 | 今日は本当のことっぽいですわね。 |
千春 | まだわかんないわよ。 |
山崎 | みんなも知っているように、地球は自転しながら 太陽の周りを回っているよね。 つまり、地球が太陽の方を向いている時が昼で、 反対を向いている時が夜ってわけだね。 |
知世 | それが温暖化と何か? |
山崎 | 最近は、コンビニとか、遊び場のせいで、 夜遊びする人が多くなったよね。 ちょうど、太陽と反対方向を 向いている時に走ったりする人が増えたから、その反動で、 地球が太陽の方向に向かって力を受けているんだ。 それで、最近、少しずつ太陽に向かって落ちているんだよ。 |
さくら | ってことは、そのうち、太陽に飲み込まれちゃうの? |
山崎 | 夜遊びする人が増えると、ますます加速するだろうね。 |
さくら | ほええ〜 |
山崎 | これ以上、温暖化するのがいやだったら、夜遊びなんてしないことだね。 |
さくら | う、うん... |
千春 | じゃあ、昼間に激しく山崎くんをぶん殴れば、反動で地球温暖化も止まるかもね。 |
山崎 | え... えっ?! |
千春 | ねえ、昨日のテレビ見た? 催眠術やってるやつ。 |
知世 | ええ、見ましたわ。 すごかったですね! 人間ってあんな簡単に催眠術にかかっちゃうんですね。 |
さくら | あたしも見たよ! みんな催眠術にかかって、 赤ちゃんとか、宇宙人さんとか、犬さんみたいになって... すごくて、お父さんもお兄ちゃんも驚いてたよ。 |
山崎 | 催眠術って、古代エジプトでファラオが平和に国を治めるために 始めたって知ってる? |
千春 | またか... |
山崎 | アメンホテップ三世って名前を聞いたことがある? |
知世 | ええ、太陽王と呼ばれた人ですわね? |
山崎 | うん! 彼は12歳で王位について、治めていた王朝は比較的平和で、 大繁栄したんだ。 |
千春 | それが催眠術となにか関係があるの? |
山崎 | もちろんあるとも。 王位について間もない頃は、 アメンホテップ三世は暴君で評判が悪く、しょっちゅう暴動が起きてたんだ。 |
千春 | またウソばっかり。 |
山崎 | 本当だよ! ね、柊沢くん? |
エリオル | ええ、アメンホテップ三世のことをよくご存じですね。 たいていの人は、むしろ、その息子や孫にあたるアクエン・アテンやツタンカーメンに 興味があるみたいですが。とにかく、アメンホテップ三世は重税を課していたので、 国民は苦しんでいたんですよね。 |
山崎 | その暴君ぶりにたまりかねて、民衆はしばしばアメンホテップの宮殿を 攻撃したんだ。 ついにファラオは、人々の心を操ることができれば 民衆を自分の忠実な犬にできると考えるようになったんだ。 |
エリオル | そこで、あらゆる状況に応じて、人がどのように反応するかを研究し、 ついに人の感情を操る法則を見いだしたんですよ。 それが、人類史上初の催眠術だったわけです。 |
さくら | そうだったんだ... |
山崎 | その発見のおかげで、アメンホテップ三世は平和な王朝を保ち、 それが約40年も存続することができたわけだよ。 |
さくら | すごいね! 催眠術がそんな大昔にできたなんて知らなかったよ。 |
知世 | もし、みなさんが催眠術を使えたらどうなさいますか? |
さくら | えっとね... あたしはお兄ちゃんに催眠術かけて、 ゴジラみたいな怪獣に踏みつぶされる場面を体験させるの。 |
山崎 | 僕は大道寺さんに催眠術をかけて... |
千春 | こら! あんたはまったく、なに考えてんのよ?! 知世ちゃんになにしようとたくらんでんのよ?! |
山崎 | いたた! 僕はただ... えっと... そうそう... 大道寺さんからいっぱいお金がもらえるかなって。 |
千春 | ウソおっしゃい。 そんなこと考えてなかったでしょ。 山崎くん、いやらしい目つきしてたんだもん。 許さないんだから、こっち来なさい。 [耳を引っぱって山崎を連れて行く] |
山崎 | あいたた! 千春ちゃん、放してよ! |
知世 | おほほほ... |
さくら | ねえ、エリオルくんは? 催眠術がかけられるとしたら、なにをしてみたい? |
エリオル | 催眠術は特殊な能力じゃないんですよ。 既に、みなさんはわたしが思ったとおりに動いてくれてますからね。 くっくっく。 |
さくら | ほえ? もうみんなに催眠術かけちゃったってこと? そんな、冗談だよね? |
エリオル | くっくっく。 さて、それはどうでしょう... |
知世 | ひな祭りは、わが家でパーティをしようかと思いますの。 |
さくら | わぁ! なんか楽しそうだね! |
知世 | もちろん、さくらちゃんをご招待しますわ。 さくらちゃんのために、十二単をモチーフにしたコスチュームを 用意しましたの。 |
さくら | はううう... あたし、おひな様なのぉ? お願いだから、普通のパーティにして... |
利佳 | ひな人形って, すっと見ていたんだけど, ひな祭りが終わったらすぐ片づけないといけないんだよね。 |
奈緒子 | 片づけが遅れると, お嫁にいくのも遅れちゃうらしいよ。 パパがそう言ってた。 |
さくら | ほえ, そうなの? |
山崎 | それは、ひな人形は厄払いの道具だからなんだよ。 |
千春 | また出た... |
利佳 | 山崎くんって, 女の子の節句のことも知ってるの? |
山崎 | もちろん! 学級委員長だもん! ちゃんと知ってるよ、節句のこととか、セック... |
千春のパンチが山崎の顔面にヒットする。 | |
千春 | 不埒なこと言ったら許さないんだから。 |
さくら | ほえええ... |
山崎 | まあ, とにかく, ひな祭りの原型は平安時代の流し雛だね。 平安時代には厄払いの意味で, 紙で作った人形を川に流していたのさ。 「ひな」 っていうのはね、当時の言葉で, 「人形」の意味なんだよ。 |
奈緒子 | でも、今は人形を流さないよね? |
山崎 | そうだね、今のように人形を飾るようになったのは江戸時代からなんだ。 それでも, 厄払いの意味は残っててね, 人形を飾ることで娘の厄を 人形が吸収してくれるって信じられていたんだよ。 |
奈緒子 | なんか面白いね。 |
山崎 | ところがね、厄があまりにも大きいと、その雛人形が厄に 負けないようにするために、魂をもつようになるんだ。 |
さくら | た、魂? ほええ... |
山崎 | すると、魂をもった人形は、髪の毛が伸びたり、 夜中に歩き出したり、冷蔵庫の中のプリンを食べたり... |
知世 | さくらちゃん、大丈夫ですか? |
さくら | あううう... |
山崎 | 怖がらせちゃった? ごめんね, 普通の人の厄はそんなに強くないから 大丈夫だよ。人並み外れた力を持つ人には, 強い厄が寄せられることも あるらしいけどね。 |
さくら | ちから? |
山崎 | うん。例えば, 第六感がするどい人とか... 予知夢を見る人とか... |
さくら | ほええええ〜!! |
知世 | 山崎くん, とどめを刺しちゃいけませんわ... |
山崎 | 何のこと? |
家庭科の時間、さくらたちはケーキを焼いている。 | |
知世 | あら、さくらちゃんのケーキおいしそうですわ! 誰かにおわたしになるんですか? |
さくら | うん、観月先生と雪兎さんに食べてもらう約束なの。 |
知世 | ふふふ。 |
山崎 | ケーキというのは、崇拝している神様へのお供え物だった って知ってる? |
さくら | ほえ? |
山崎 | 昔の人は、神様が甘いものが大好物だと信じていたから、 収穫祭の時とかに、信仰する神様へケーキを焼いて捧げていたんだよ。 特に、地獄の番犬ケルベロスってのが、何よりも甘いものには 目がなかったんだって。 |
さくら | あ、それはなんとなくわかる気がする。 |
知世 | ホントにそうですわね、さくらちゃん。 |
山崎 | でも、世代を重ねるうちに、神様への信仰心を ケーキの大きさで判断するようになったんだ。 それで、記録がある中で最大のケーキは体育館くらいの大きさで、ちょうど... |
千春 | 山崎くん! |
山崎 | うわぁっ! ごめんなさい! |
千春 | なんで謝るの? |
山崎 | あはは、なんでもないよ。 どうしたの? |
千春 | 山崎くんが焼いたケーキ、食べてあげよっか? どれどれ。 |
山崎 | ちょっと待った! |
千春 | なんなのよ? |
山崎 | あの、それは観月先生にあげることになってるから... |
千春 | なんですって? あたしじゃなくて、 観月先生にケーキをあげるですって?! この、よくもよくも! |
山崎 | そうじゃないよ。 ちゃんと千春ちゃんの分も焼いてるから。 ほらね。 |
千春 | どっちでも同じじゃない。 どうして、こっちを食べたらいけないの?! 怪しいわね。 ほら、あんたが食べてみなさいよ。 |
千春は、観月先生にあげるはずのケーキを山崎の口に押し込む。 ケーキがのどを 通るやいなや、山崎は崩れるように眠ってしまう。 | |
千春 | 睡眠薬か。 やっぱりヘンなことを考えてたのね。 このヘンタイを捨ててくるわ。 |
千春は山崎を引きずってその場を離れる。 | |
知世 | 今度は、山崎くんを線路に置き去りにする気でしょうか? |
さくら | ほえええ... |