さくらが家に帰ると、桃矢と雪兎が庭に立って、何かを 見て考え込んでいる | |
さくら | ただいま。 あ、雪兎さん。 |
雪兎 | お帰りなさい、さくらちゃん。 |
さくら | 何かあったの? 考え込んでるみたいだけど。 |
桃矢 | ほら。 ユキと庭を掃除してたら こんな羽根を見つけたんだ。 大きさからして、普通の鳥の羽根じゃねーな。 |
さくら | あっ! フライの翼から落ちた羽根だ! |
雪兎 | こんな大きな羽根をもつなんてどんな鳥だろうね。 真っ白できれいな羽根だよね。 |
桃矢 | おい、さくら。 おまえ、まさかこんな羽根がはえた動物とか 黙って飼ってねーよな。 |
さくら | え... あの... |
桃矢 | それとも、おまえに羽根がはえてたりして。 |
さくら | それって... [あせってる] |
雪兎 | それはいいね、桃矢。 天使の羽根だね。 さくらちゃんのことを天使だなんて、桃矢もたまにはいいこと言うね。 |
さくら | えっ。 |
桃矢 | ちげーよ。 最近では、鳥は恐竜が進化したという 学説が有力らしい。 それで、肉食恐竜の中にも羽毛がはえてたものが いたってことだ。 だから、ウチの怪獣にも羽根があっても おかしくないだろ。 [ニヤリ] |
さくら | がるるるる... |
さくらちゃんはカードの主になったばかりの頃、カードをさくらカードに 変換すると力を使い果たして、そのまま眠ってしまっていました。 ということは、 眠っているさくらちゃんを誰が着替えさせたのでしょうか? | |
カードを変換したさくらは、疲れ切って、知世が用意したワゴン車の中で 眠っている。 | |
ユエ | リボンは外した。 胸のボタンも外したぞ。 次はどうすればいい? |
知世 | さあ、ユエさん。 袖のところから伸びている ストラップがあります。 胸の裏地に引っかけているので、 それを外してください。 |
ユエ | ああ、これか。 よし... すごい面倒なつくりになってるな。 なんでこんな複雑なデザインにする必要があるんだ? |
知世 | それは、さくらちゃんのかわいさを 演出するためには仕方ないことですわ。 |
ユエ | もういい! やめだ、やめ! ケルベロス、お前が服を脱がせろ。 |
ケルベロス | なにゆーてんのや? わいの手でそんな 器用なことできるわけないやろ。 こうやって、さくらの体を 押さえとるだけで精一杯や。 ユエ、どうせ、さくらを着替えさすの、 これがはじめてやないんやろ?(注) |
ユエ | そんな言い方はよせ。 |
ケルベロス | あ、ええ方法があるやないか。 知世が着替えさせたらええんとちゃうか? この服は、知世がデザイン したんやさかいな。 |
知世 | それは できませんわ! わたしはこうやって、 さくらちゃんの超絶かわいい寝姿をビデオに収めないといけませんもの。 |
注) 通説では、「第6話 さくらとお母さんの思い出」 で、眠っているさくらちゃんの 服をユエが着替えさせたと言われています。
さくらとケロは部屋の窓の外に戻ってきて、ミラーは窓を開けて二人を 中に入れる。 | |
ミラー | あ、お帰りなさい。 |
さくら | 月峰神社のご神木のまわりに不審な気配が漂ってたんだけど、 何とか鎮めることができたよ。 |
ケロ | さくらはホンマによーやったで。 カードをすべて変換してからも、 ますます力はつよーなっとる。 |
ミラー | それは頼もしいです。 ところで、今日は大変でした。 |
さくら | どうしたの? |
ミラー | 買い物をしに出かけたんですが、男の子が5人、立て続けに 「遊びに行かないか」 って声をかけてきたんです。 |
さくら | 連続5回、声をかけられったってこと? |
ミラー | はい、一人ずつ... 全部で5回です。 あ、それじゃ、わたし カードに戻りますね。 |
ミラーはカードの姿に戻る。 | |
さくら | はぁ、あたし声をかけられたこともないのに。 ミラーさんって もてるんだね... [元気なさそう] |
ケロ | ん? ひょっとしてミラーに妬いとるんか? |
さくら | そんなわけないでしょ。 あたしには小狼くんがいるもん。
それに、そんなチャラチャラしたこと望んでないし。 5回連続か... ミラーさんって、あたしとそっくりなはずなのに... どこが違うの? |
ケロ | あ〜あ、すっかりヘコんでしもたようやな。 |
さくらはエリオルに電話をかける。 柊沢邸ではエリオルが電話に出る。 | |
エリオル | はい、柊沢です。 |
さくら | あっ、エリオル君。 木之本です。 大変なことが起きたの。 |
エリオル | 電話してくると思ってましたよ。 |
柊沢邸、電話の向こうから爆発音が聞こえる。 | |
エリオル | ルビー、歌帆! 捕まえましたか? (電話に戻る) あ、失礼しました。 |
さくら | そっちも大変なことになってるみたい。 |
奈久留 | ふう! エリオル、やっと... 取り押さえたわよ。 |
さくら | 実は、今日バレンタインデーだから、お兄ちゃんと、小狼君、 お父さん、知世ちゃんに、腕によりをかけてチョコレートを作ったの。 |
エリオル | さらに、ケルベロスには、特製のミルクチョコを作ったんですね。 |
さくら | そうなの。 でも、勝手に食べられちゃうのもいやだから、 冷蔵庫に鍵をかけてたんですけど... ケロちゃんたら、ループのカードを そそのかして、冷蔵庫の中と外の空間をつないでチョコレートを 取り出したみたいなの。 |
エリオル | ループは空間をねじ曲げてつなぎ、出口のない世界を作るカード。 でも見方を変えれば、空間をねじ曲げてつなぐのはワープ航法の原理。 ケルベロスも考えましたね。 |
さくら | でも、ケロちゃんったら、チョコを食べるやいなや、口の中が 大火事だと騒いで暴れたの。 |
エリオル | それは、こっちのチョコレートと入れ替わったみたいですね。 実は、歌帆もチョコレート作りをしていたのですが、 甘いもので酔っ払って手のつけられないの (スピネル) がいますから、 特性のカラシ塩昆布入りチョコを作ったんです。 |
さくら | カラシ塩昆布... (笑いをこらえているが...) ... あは... はははは。 ホントに入れ替わったみたい。 でも、どうして、そんなことが起きるんだろ? |
エリオル | さくらさんの冷蔵庫の外からウチの冷蔵庫の中に。 ウチの冷蔵庫の外から さくらさんの冷蔵庫の中に。 ループを1回ねじってつなげば、裏と表を通り、 2回転しないと元の場所に戻れない構造ができます。 ループも、さくらさん 以外の人に使われるんで、ちょっと意地悪したのかもしれませんね。 |
さくら | ふーん。 なんか、わかったような、わからないような。 やっぱり、むずかしいよ。 |
奈久留 | さくらちゃん! おかげで、こっちは、不意にミルクチョコレートを 食べさせられた大虎を必死で捕まえたんだからね。 |
さくら | ごめんなさい。 |
エリオル | ところで、ケルベロスは? |
さくら | ケロちゃんがあまりにも暑そうだったので、ウォーティをつかって捕まえたの。 今も、氷嚢を4つ抱えて、うなってます。 |
歌帆 | 木之本さん、それはよくないわね。 食べ物の好き嫌いって、そういう 体験をきっかけにはじまるものよ。 |
奈久留 | カラシ塩昆布チョコ作った人が言う台詞じゃないと思うけど。 |
スッピー | 同感なのら... ヒック... |
エリオルがさくらの家に遊びに来た。 | |
さくら | いらっしゃい、エリオル君。 |
エリオル | お招きに預かり、やってきました。 |
二階のさくらの部屋から、鳴き声が聞こえる。 | |
さくら | ケロちゃんなの。 今日はお兄ちゃんもお父さんも いないから よかったけど。 |
さくらの部屋では、真の姿に変身したケロが泣いている。 | |
ケロ | なんでや?! なんで わいだけこんな仕打ちに 我慢せなあかんのや。 |
エリオル | どうしました? |
ケロ | あっ! お前はクロウの... おぉーん! なんでわいを こないな姿に創ったんや?! |
さくら | 最近、ケロちゃんはネコさんたちの集会に 出るようになんだけど... |
ケロ | さくら、もうそれ以上 言わんといてや。 |
エリオル | なにか困ったことでも? |
さくら | 「ヒゲのない軟弱者め」 と言われて集会から 追い出されたみたいなの。 |
エリオル | ヒゲは確かに、ネコたちには必要と思われていました。 しかし、最近はヒゲがなくても生活に支障がないという研究が 発表されたらしいですね。 |
ケロ | わいが聞きたいのはそんなことやない! なんで、 わいにヒゲをつけてくれかったんや?! あのカッコいいヒゲを、 今からでもいいからつけてくれ! |
エリオル | 困りましたねえ。 私が受け継いだのは、クロウの記憶だけです。 あなたを創造する時の動機が、感情を再現できなくては同じ 魔法は使えない。 |
窓の外にはネコたちが珍しいものを見るように集まっている。 | |
ケロ | ヒゲぐらいで偉そうにすんな! お前ら、まとめて焼き ネコにしたるぞ。あっちへ行け! |
さくら | ケロちゃん! 焼き餅はだめよ! |
ケロ | さくらー! わいは悔しい!! |
その頃英国でも同じような会話が... | |
奈久留 | ねえ、スッピー。 どうして黒ヒョウのあんたにヒゲがないの? エリオルの手違い? |
スッピー | 違います。 ヒゲのある動物、特に、ネコ科の動物は人間に恐怖心を 与えますが、反対にないと... |
奈久留 | ないと...? |
歌帆 | ないとね、「きゃー、可愛い!!」 と言わんばかりにご婦人方が 集まってくるのを、期待していたらしいわ。」 |
奈久留 | 動機不純ね! スッピー、あんたも被害者ってわけか。 |
さくらの部屋では、知世がケルベロスに猫用の付けヒゲをつけている。 | |
知世 | はい、これでどうでしょう? |
ケロ | うーん、かっちょええ! ヒゲ 一つでこんなに変わるもんか。 |
さくら | 見違えちゃった! かっこいいよ。 ケロちゃん! |
エリオル | ヒゲをつけけなかった理由。 それは... |
知世 | [小声で] ただ、単に面倒だけだったのでしょう? |
エリオル | はい... |
さくらがげっそりして学校から帰って来る。 | |
さくら | ただいま。 |
ケロ | どないしたんや? 元気ないで。 |
さくら | ちょっとね... はぁ... |
さくらはグッタリとベッドに倒れこむ。 | |
ケロ | どないしたん? 学校でやなことあったんかいな? |
さくら | うん、今日ね、あたしの魔力が暴走しちゃってミラーさんが現れたの。 |
ケロ | なんやて? |
さくら | そこに、お兄ちゃんが出くわたもんだから、ミラーさんパニックになっちゃって、 カードに戻る途中であたし巻き込まれて、一緒に鏡の中に入っちゃったの。 |
ケロ | げっ! 鏡の世界・鏡像空間に入ったんかいな? |
さくら | うん。鏡の中にもみんながいたの。 でも、山崎くんは博識じゃないけど嘘をつかないし、千春ちゃんは 優しくておとなしい人だった。 |
ケロ | 反対の世界か。 そうなると... |
さくら | 寺田先生は何かにつけて生徒にお仕置きをするし、そんな先生に 利佳ちゃんはとっても反抗的なの。 奈緒子ちゃんはガリ勉で 次のテストのことしか話さない。 |
ケロ | やな世界やなぁ... |
さくら | 知世ちゃんはお迎えの車に乗りながら「ごきげんよう、さくらちゃん。 足が鍛えられていいですわね。」 なんてイヤミ言うし、 それに... 小狼くんなんか... とってもプレイボーイなんだよ。 |
ケロ | 所詮 鏡の中は、別世界や。 それよりも、あのクロウの生まれ変わり から呪文が届いたで。 |
さくら | エリオルくんから? ってことはおヒゲの呪文ね... あれ? |
ケロ | どないしたんや! はよう、はよう、つこてや! ほれ、ネコどもも見にきとるわ。 |
さくら | そういえば、鏡の中のケロちゃんは立派なヒゲを生やしてた... |
ケロ | なっ! |
さくら | ちょっと待って! この呪文ってひょっとして?! |
その様子を、イギリスから覗いている人たちがいた。 | |
エリオル | くっくっく。どうやら、さくらさんは気づいたらしいですね。 |
奈久留 | エリオルってセコい! さくらちゃんに思い止まらせるためにあんな ことまでして。 そんなに、ケルベロスにヒゲを生やされたくないの? |
エリオル | 野生の血は、彼にとって無縁だからな。 |
スッピー | だからと言って、こんな手を使うとはホントに性格悪いですね。 |
さくらの部屋では、前回 (ショーティ25) に引き続きケロが泣いている。 | |
ケロ | お〜い、おい、おい... [泣] どーゆー理屈や! わいのヒゲが世界を変えるちゅうんかい?! ひどい!ひどすぎる〜! |
タマ(三毛猫) | やっぱり、軟弱者は軟弱者じゃ。 |
さくらたちは友枝セントラルプラザで開催されている 英語弁論大会を聴いている。弁論大会に参加している山崎が ステージでスピーチをしている。 | |
さくら | わぁ、山崎くんって英語がうまいんだね。 |
千春 | 妙に芸達者なのよね。 |
知世 | 友枝町の野生動物についてお話しのようですわ。 |
さくら | 知世ちゃんも英語がわかるんだ。すごいね。 |
知世 | ええ、でも少しですわ。 |
千春 | 友枝町に野生動物なんていたっけ? |
奈緒子 | 学校の裏山でタヌキを見た人とかいるらしいよ。 |
その30秒後、千春は立ち上がり、大またでステージまで歩いていくと 山崎からマイクを奪い取る。 | |
千春 | うそよ、うそ! だまされちゃダメ! |
千春は山崎を引きずりながら席に戻ってくる。 | |
知世 | 一般公開の弁論大会なのに、いつもどおり山崎くんの うそが炸裂ですわね。 |
山崎 | うそだなんて、ちょっとした話のスパイスさ。 |
千春 | うるさいわね! |
さくら | 千春ちゃんもすごいね。英語がわかるんだ。 |
千春 | 英語はわからないけど、なんとなく、 うそ言ってるような気がしたのよ。 |
さくら | ほええ... |
英語がわからないにも関わらず山崎のうそを見破った千春に 感動した審査委員長は、言語以外の手段によるコミュニケーションの 底力を認識し、千春に審査員特別賞を贈ったとか、贈らなかったとか... |