スッピー | 無のカードのことを予め新しい主に 教えてあげられなくて残念でしたね、エリオル。 |
奈久留 | ほんと、さくらちゃんたち大変だったみたいだし。 |
エリオル | わたしがクロウリードから継いだ記憶が完全なものでさえあれば... だがさすがはさくらさんたちだ。よくやってくれた。 |
奈久留 | 香港でも魔導師に大変な目にあわされたんじゃなかった? |
スッピー | そういえばそうですね。 彼女のこともやはり記憶が...? |
エリオル | そうだ。だが、あの髪飾りはかすかに見覚えがある。 薇 (メイ) にプレゼントしたものだったか、美鈿 (メイティン) だったか... それとも瑞恩 (スイヤン)? いやいや美鳳 (メイフュン)? 嘉欣 (ガーヤン) だったかもしれないし、 慧琳 (ワイラム) という可能性も捨てきれない... ひょっとしたら惠妹 (ワイミュイ) か? ああ、クロウの記憶が完全なものでさえあれば! |
奈久留 | エリオル、そういう次元の問題じゃないでしょ!? |
このショーティは、CCS 第55話 「さくらと不思議の国のさくら」 の直後が舞台です。 | |
奈久留 | エリオルが『不思議の国のアリス』 の世界に入っちゃうなんて... |
スッピー | 全然 似合ってなかったですね。 |
エリオル | 仕方ない、さくらさんが読んでいたのが 『アリス』 だったんだから。 わたしの趣味ではない。 |
奈久留 | だと思った。 あ〜あ、わたしも入りたかったなぁ〜。 |
スッピー | あなたが? アリスに? |
奈久留 | なによー、いけない? |
スッピー | エリオルほどではありませんが... やっぱり似合いませんね。 |
奈久留 | じゃ、ユエは似合ってたてゆーの? |
スッピー | そ、それはけっこう難しい問題ですね。 |
奈久留 | スッピーだって 『黒猫』(1) とかなら出番あったのに、残念ねー。 |
スッピー | 誰がスッピーですか?! それに、あなた、わたしを壁に塗り込めるつもりですか! |
奈久留 | しーらない、っと。 ねぇねぇ、エリオルはなに読んでたの? |
スッピー | ま、どうせ小学生が読む類のものではなかったでしょう。 |
奈久留 | そーよねー。 『カーマスートラ』(2) とか 『毛皮を着たヴィーナス』(2)、 『美徳の不幸』(2) ってとこかな。 |
スッピー | それとも 『O嬢の物語』(2) 『イギリス人』(2) 『特性のない男』(2) などでしょうか。 |
エリオル | ...... |
スッピー | おや、どれかが当たってたみたいですね。 |
エリオル | おまえたち、どうしてそんな本を知っている!? |
スッピー | みんなこの屋敷にある本ばかりですから。 |
奈久留 | まだまだいっぱいあったわよ。 |
エリオル | ま、まだまだあるって? 本当か? ど、どこに! |
スッピー | 前世でご自分で隠してた本、覚えてないんですか? |
奈久留 | とゆーか... やっぱりエリオルさいて〜 |
編集者注 (1) エドガー・アラン・ポーの作品。 飼っていた黒猫を 殺してしまった男が、さらに黒猫に対して憎悪を抱くようになり、再び、 黒猫を殺そうとする。 それを制止する妻を誤ってあやめてしまい、 妻の死体を壁に塗り込めてしまうが、黒猫までも一緒に塗り込めてしまったことで、 殺人を犯したことが発覚することになる。 (2) いずれにしても、 小学生が読むような文学作品ではないようです。 それ以上の説明は、このサイトの範疇を越えておりますので、控えさせていただきます。 ^^; |
スピネル | ちょっと、エリオル。 どうしたんです。 突然 家を飛び出したりして。 |
エリオル | ふっ、いい考えが浮かんだんだよ、スピネル。 |
スピネル | 不思議な事件を起こして、クロウカードの主を呼び出す気ですね。 |
奈久留 | ねえ、エリオル。 どうして、わざわざこんなことまでする必要があるの? |
エリオル | ふ、もうじきわかるよ。 |
スピネル | エリオルは女の子が困っているところを見るのが大好きなんですよ。 |
エリオル | こら! 私をヘンタイみたいに言うじゃない! |
奈久留 | そんなことはいいけど... 日曜日の夜7時にお出かけはやめてほしいな... |
エリオル | どうしてだ? |
奈久留 | だって、今日は 鉄腕DASH の日だよ。 |
エリオル | なんだ、テレビの話か。 |
奈久留 | ちょとぉ、あたしがどんなに楽しみにしてるか知らないでしょ! あたしの長瀬くんと太一くんを返してよ〜! |
スピネル | しぃ〜... 大声を出さないで。 |
エリオル | サンドイッチを作ってきたから、さくらさんが来るまでこれを食べて待ってろ。 |
奈久留 | やった! サンドイッチだ! あむっ! |
スピネル | クロウカードの主が来るまで、あと 20 〜 30 分ってとこでしょうか。 |
エリオル | そうだな。 さくらさんの力も強くなって、自分で私の魔力を 感じられるようになったから、本当に楽になったよ。 思い出してみると、さくらさんがカードの主になったばかりの頃は、 さくらさんに気づいてもらうために、 大雨をずっと降らせたりしないといけなかったからな。 |
スピネル | 確かにそうですね。 |
エリオル | 最近は、力を解放して、30 分くらい樹の上で待ってるだけでよくなったよ。 |
奈久留 | さくらちゃんが、エリオルの力に気づいて、友達を呼びだして、 フリフリのお洋服に着替えてる時間ね。 |
30分後、バトルコスチュームを着たさくらが、知世と小狼とケロとユエと一緒に グラウンドに入り、エリオルたちが隠れている樹の方に走ってくる。 | |
奈久留 | あたし、時々 思うんだけど、あたしとスッピーって、 単にエリオルのヘンタイ仕事につきあわされてるだけじゃないの。 |
エリオル | おい、今やっているのはそんな低次元な... しっ... 静かに。 そろそろ出番だ。 私のアリスがやってきた。 |
奈久留 | その表現... やっぱりヘンタイだわ... |
エリオル | ふむ、きれいな虹だ。 こんな日は思い出すな... |
スッピー | エリオル、物思いにふけって、どうしたんです? ファンタグレープを片手に。 |
奈久留 | え、それジュースだったの? ワインかと思った。 |
エリオル | こんな虹を見ていると、前世、香港にいた頃を思い出すんだよ。 |
奈久留 | クロウ・リードだった頃のお話ね。 |
エリオル | ああ、あの頃の私は、魔力を利用した商売に失敗して、失意の 底にいた。 金はなく、頼るべき人もいない... 空腹感が襲う。 ぼろきれのように雨にうたれ、空にはあのような虹が出ていた。 そんな時だ、あの男に出会ったのは。 |
スッピー | 男? 食べ物でもめぐんでくれたんですか? |
エリオル | ああ。 でも食べ物だけではない。 やつは、私に次の商売の 話をもちかけてきた。 その話はとても魅力的で、私は 彼の言葉の端々にうなずいていた。 |
奈久留 | で、その人と 新しい商売を始めたの? |
エリオル | ああ。 やつは野心家で、しかも美形。 彼の魅力的な瞳は 成功を求める情熱で輝き、ビジョンを語るたびに、彼はそのつややかな 長髪に指を滑らせていた。 彼の話す言葉、しぐさ、すべてに くらくらしたものだよ。 |
奈久留 | へぇ〜、どれくらいカッコいい人だったのかしら... |
エリオル | それが、ある晩、彼は私に打ち明けたんだ。 自分が強い魔力の 持ち主だということを。 それまで、魔力をずっと隠してたんだ。 さらに、次の作戦をささやきかけてきた。私の力と合体させれば、 二人は無敵ななると... やつの魅力的な唇は、そんな言葉をささやき... つややかな髪に美しい指を走らせ... だから私は... |
奈久留 | ゴクッ... |
エリオル | 私が他人のために働くなど、あってはいけないことだ。 世界一強力な魔導師は、私以外にいてはいけない。 私はすべての魔力を解放して、私を利用しようとした魅力的な 愚か者を粉砕してやろうとした。 彼が強い魔力を持っていたとしても、 クロウ・リードの魔力にかかっては、子猫同然だった。 精神的打撃を受けたのか、やつは魔力を失ってしまった。 ま、不幸な事故だった... が、ユエはどことなく、やつに似ている... もしかして、私は... |
スッピー | エリオル、ひどすぎます! あなたには、血も涙もないんですか? |
奈久留 | ちょっとぉ! オチは? まさか、それで話は終わり?! |
エリオル | 終わりだ。 |
奈久留 | 人がせっかく、どうなるかと思って、黙って話を聞いていたというのに、 それがオチだなんて、なんなのよぉ! ったく、男って、サービス精神のかけらもないんだから! |
奈久留 | ねぇ、エリオル、そろそろ出かけようよ〜。 |
スッピー | そうですね。 あまり遅いと彼女らにも気の毒ですし。 |
エリオル | そうだな、後 1 時間ほどしたら出かけるとするか。 |
奈久留 | えー、早く行こうよー。 このごろはエリオルだけで楽しんじゃって、ずっと退屈してたんだからぁ。 それに、今日はユエとケルベロスを仮の姿の戻れなくしちゃうんでしょう? 楽しみにしてるのに〜。 |
エリオル | 今はまだダメだ。 |
奈久留 | なんで〜? |
エリオル | 教訓だよ。 ダッシュの時、大道寺さんには悲しい思いをさせてしまったのでね。 これからはそんなことのないように気を遣わなければ。 |
スッピー | 相変わらず女性にだけは優しいですね。 |
奈久留 | ふーん。 あの子、今なら大丈夫なの? |
エリオル | 間違いない。 大道寺さんは月曜から木曜日、それと土曜日は 8 時から。 金曜日は 9 時からで、日曜日は 8 時半からそれぞれ約 40 分間だ。 今はちょうど髪を乾かしているくらいの時間帯だな。 |
スッピー | エリオルそれってまさか... |
エリオル | 彼女の入浴の時間帯だ。 |
奈久留 | じゃ、近頃じゃあの子のとこも覗いてたわけぇ!? |
エリオル | ああ。 なかなか苦労したが、 それも大道寺さんに悲しい思いをさせないためだったのだから、仕方がない。 彼女のためを思えばわたしの苦労など... |
スッピー | それは真っ赤な嘘ですね。 |
奈久留 | モロ自分の趣味じゃない。 |
エリオル | うるさい奴らだな。 そうだ、じゃ、ルビー、おまえにもさくらさんのお兄さんを見せてやろうか? |
奈久留 | 桃矢君を、ほんとぉー? ...って、わたしエリオルみたいにおちてないわよ! |
エリオル | ふむ、そうか... 歌帆は喜んでくれたのだがな... |
スッピー | あ、あなた方は... |
奈久留 | ほ〜んとサイテー。 |
ケルベロス | どや、小娘、わいの真の姿は! メッチャかっこええやろ! |
苺鈴 | たいしたことないわね。 タイガーバームみたい。 |
ケルベロス | なんやとー!! : |
エリオル | くっくっく、なかなかするどいお嬢さんだ。 |
奈久留 | え〜、マジなのエリオル? |
エリオル | ああ。 我が家の常備薬でたまたま目の前にあったので、つい。 |
奈久留 | わー、ケルベロスかわいそ〜 |
スッピー | ... ひどい話ですね。 |
奈久留 | じゃ、スッピーは? |
スッピー | わたしは聞きたくありません! |
エリオル | おまえはケルベロスとは違う。 |
スッピー | 本当ですか? |
エリオル | ああ。柊沢エリオルになってからTVで放映されていた 『バビル二世』 にはまってね。 いつかロデムが欲しいと思っていたのだよ。 |
スッピー | あああ、やっぱり聞くんじゃありませんでした! |
奈久留 | 古すぎー。 やっぱり中身はおじさんなんだ、エリオル。 |
エリオル | うるさい! ルビー、つべこべ言うと黒影豹馬に変えてしまうぞ。 |
奈久留 | やっぱり古いー。 |
エリオル | 思い出したぞ! |
スッピー | なんですかいきなり。 |
奈久留 | 思い出したって何を〜? |
エリオル | 香港の女魔導師の髪飾りだ! |
スッピー | ああ、あの、誰にあげたかわからないという。 |
奈久留 | そうそう。候補者が多すぎて特定できなかったのよね〜。(1) |
エリオル | うるさい! あれはあれでみんな正解だったのだ。 |
スッピー | また変なことを言い出しましたね。 |
奈久留 | ほーんと。 |
エリオル | 惠妹 (ワイムイ) でも 蘊儀 (ワンイー) でも 曉萱 (ヒウヒン) でも同じだ。 |
奈久留 | また違う名前がでてるぅ。 |
スッピー | それに言っていることが解りません。 |
エリオル | あの髪飾りは、ツインのカードでバカスカ量産して
配りたおしていたものだ! だから、誰にやったものか覚えてなくて当然だし、誰でも正解なのだ! みろ、この屋敷の書斎にもこーんなにあったぞ! どうりで見覚えがあったはずだ。 |
奈久留 | ... 魔導師の特定という目的から外れてるわ。 |
スッピー | しかも... バカスカ... って。 あーあ、まだあんなにいっぱい... |
奈久留 | あの調子じゃ歌帆さんにもあげたんじゃない? |
スッピー | 可能性はありますね。 聞いてみたらいかがです? |
エリオル | なんださっきからひそひそと。 わたしの話を聞いているのか? |
奈久留 | じゃ聞かせてもらうけど、エリオル、歌帆さんにもあげた? |
エリオル | ん? |
奈久留 | だから〜、 バカスカ量産した一つを歌帆さんにもあげたんじゃないの? って訊いてるの! |
スッピー | だからこそ見覚えがあったんじゃないんですか、と。 |
エリオル | .........! |
奈久留 | あ〜らら。 |
スッピー | 身に覚えがあったようですね。 |
エリオル | おまえたち、その髪飾り好きなだけやるから黙ってろ。 |
スッピー | いりませんよ、そんなもの! |
奈久留 | クロウリードもエリオルも、ほんっとサイテーよね。 |
(1) 柊沢家の団らん 11 「不完全な記憶」 を参照。
奈久留 | そういえばエリオル、カードの姿ってさぁ〜、どうやって決めたの?? |
エリオル | ん? ああ... 私が、かつて、つき合った者がモデルかもしれないな。 |
歌帆 | 剣 (ソード) や 盾 (シールド) も...? |
エリオル | 人間の姿をしたやつの話だ。 年齢とか外見などは本当に、そっくりかもな。 |
スピネル | というか、いったい何人の人たちと。 |
奈久留 | え? だって、光 (ライト) と 闇 (ダーク) っていつも一緒... とゆーか、双子みたいなもんでしょ? |
エリオル | ルビームーン、するどいな... |
スピネル | 双子相手に二股かけたんですか? |
奈久留 | つき合ったって、どのくらいまでいってたの? カードの姿の人たちと。 |
エリオル | おいおい、野暮なこと聞くんじゃない。 |
歌帆 | ん... |
エリオル | どうした、歌帆? |
奈久留 | あれ? 力 (パワー) のカードって子供じゃ...? |
エリオル | いや... あれは、前世の記憶が完全じゃないな... |
奈久留 | まさか、子供相手に、野暮なことしてたの? |
エリオル | な、なんでそうなるんだ!? |
歌帆 | いくら前世のことでも... 許せない! |
エリオル | か、歌帆! 包丁は振り回すものじゃない!! |
奈久留 | エリオルもクロウ・リードも最低... |
奈久留 | エリオル、さっきの歌帆さんからの電話、なんて? |
エリオル | ああ、さくらさんからの手紙にどう返事を書けばいいかという相談だ。 |
スッピー | あの子、彼女に手紙を書いてるんですか? |
奈久留 | ふふっ、さくらちゃん全然気づいてないんだ、歌帆さんのこと。 |
エリオル | さくらさんらしい。 人を疑うことをしない。 |
スッピー | けれど、サンドもリターンも、メイズも彼女の実家で飼ってたんでしょうに。 それでもなにも勘ぐらないとは、ちょっと問題ですね。 |
奈久留 | ええ〜! 飼ってたわけ? 歌帆さんが? |
エリオル | そうだ。 リターンはあの場所で発動させる必要があったし、 サンドは歌帆が折を見て発動させる手はずになっていたからな。 |
奈久留 | 歌帆さん、カード使えるの? |
エリオル | いや、発動させるのはあくまでもわたしで、歌帆は機会を捉える役だ。 |
スピネル | では、メイズは? |
エリオル | メイズは歌帆に頼まれて時々発動させていた。 |
奈久留 | なんで〜? |
エリオル | お札やお守りを買わないで素通りする参拝客を足止めするのだ。 |
スッピー | ...それが巫女さんのやることですか?! |
奈久留 | まじサイテーのバカップルよね。 |
奈久留 | エリオル、今度の生涯ではホントに魔法のカードを創る気ないの〜? |
エリオル | 前にっも言ったが、カードを創る気は毛頭ない。 |
スッピー | エリオルにはもう、次に生まれ変わりたくなるような 理由がないんですよね。 |
エリオル | そういうことだ。 またカードを創ってしまったら、 次の主をサポートするためにもう一度生まれ変わらないといけない。 |
奈久留 | そうなると、スッピーとわたしは、 選定者と審判者になれるんでしょ? ケルベロスと バカ ユエ みたいに。 |
スッピー | ひょっとして、あなた、審判者になりたいんですか? |
奈久留 | あったりまえじゃない! 審判者といえば、カードキャプターがカードの主にふさわしいか見極める人よね。 で... そのカードキャプターというのが、かわいい男の子だったら、 こういう問題を出すの。 「手にしたカードすべてを使い、わたしを世界一 幸せな女にしなさい。」 って... ふふふふふ.... |
スッピー | あなたは一体... |
エリオル | ちょっと待て、その続きはわたしに言わせてくれ。 ルビー・ムーン、さいてー。 |
奈久留 | あぁぁっ! エリオルに言われたか ないわよ! |