作者: あかね
雪兎: 「桃矢! こんな所にいたんだ。 もうすぐ始まるよ。」
桃矢: 「ん...」
雪兎: 「やっと認めてあげたんだから、ちゃんと出席しなきゃ。 さくらちゃん、すごくきれいだったよ。」
桃矢: 「すぐ行く。 今更止めたって仕方ねーしな。」
妹は今日結婚する。家を出ていくのだ。 もちろん俺は独立して 一人暮らししてるから、一緒に住んでたわけじゃねぇけど... それでも、やっぱり違う気がする。今日で何かが変わってしまうのだ。 思えば何度、二人の邪魔をしただろう。初めて会った時、止められると思ってた。 二人が仲良くなり始めても、まだ運命を変えられると信じてた。
ユキに力を渡して、さくらを守ることは、月に任せた。 それでも、 あのガキのことは認めなかった。認めたくなかった。 だから、 あいつがもうガキと呼べなくなるくらい成長しても、心を許すことはなかった。
さくらと一緒に結婚の事を相談に来ても、「学生だ」 「収入がない」 と次々に 課題をつきつけた。 でも、ある時ふと思った。
「俺はさくらの望みをなぜ叶えてやらないんだろう? さくらが 幸せになるのを止めているのではないか?」 と。
確かに、あいつはさくらを幸せにできる唯一の人物だ。 二ヶ月前、ついに俺は口 を開いた。
「結婚式はいつだ?」
その言葉を聞いた二人は、目を大きく見開いて顔を見合わせていた。 俺は その様子がおかしくて、おもわず笑ってしまった。それで、ふっきれたはず だった...
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俺は式直前だというのに、桜の木の下で悶々としていた。 風は心地よいのに、俺 の心は沈んでいた。 自分でもどうして素直に喜べないのか分からない。 そこへユキが呼びに来たのだ。 ユキは俺の気持ちを察したのか、 笑いながら手を引っぱった。
雪兎: 「ほんとは分かってるんだよね、桃矢も。 さくらちゃんは とっても幸せになれるんだって。 大丈夫だよ。 さくらちゃんは 桃矢のことも大切に想ってくれてるよ。」
桃矢: 「おい、ユキ! そっちは...」
雪兎: 「さあ行こう桃矢。 さくらちゃんは待ってるよ。 それに李君も。」
ユキは俺を会場の奥の部屋まで連れて行った。 そして、 ゆっくりと扉が開いた...
ドアの向こうには、ウェディングドレスを来たさくらが立っていた。 フリルの 豊かな白いドレスに、うすいピンクをふんわりと重ねた優しいドレスだ。 さくらにとても似合っていて、その美しさはひときわ目立った。 細部にまでこだわったデザインは、その質の良さを物語っていた。 側では、デザイナー界のカリスマ女性が最後の手直しをしていた。
知世: 「いかがですか? きれいに仕上がってますでしょ? やっぱりさくらちゃんは 素敵ですわ。」
桃矢: 「ありがとう。仕事が忙しいのに迷惑かけたな。」
知世: 「いいえ。 さくらちゃんの為ですから。 ビデオは十台設置 してありますの。 特別にお願いしたんですよ。 李君は隣の部屋で着替えてますわ。」
その時、隣から大きな声が聞こえてきた。
苺鈴: 小狼、ネクタイが曲がってるじゃない! 木之本さんを早く見たいのは 分かるけど〜」
知世: 「苺鈴ちゃんですわね。 そういえば、李君は中国人ですから 国際結婚ですわね。 けれど、式は中国風でも日本風でもありませんわ。 どうしてでしょう?」
俺は理由を知っていた。 小狼はさくらのために、李家の跡継ぎの役目を放棄した のだ。 だから、二人は伝統や歴史に縛られず、自由な結婚式をしたかったのだ。
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部屋を出てからも、俺は考えていた。 とりとめのない事... そしてさくらの事を。
父さんは入り口で李家の出迎えをしていた。 園美さんは式の飾りを整えさせたり、 料理の手筈を揃えたりしてくれていた。 みんなさくらの幸せのためにしている事だ。 俺は何をすれば・・・
結婚式でこれほど暗い顔をしているのは俺くらいだ。
さくら: 「お兄ちゃん。」
ロビーにさくらと小狼がいた。 その微笑みを見た時、俺は悟った。
俺がここに存在すること、祝ってあげることだけでも、さくらは 幸せになるのだ。 幸福にはさまざまな形がある。 人によって できる事は異なるけれど、そのどれもが大切なのだ。
その人への想いが本物ならば、必ず幸せにする方法はある。 俺は見つけた。そして二人に向かって笑いかけた。
「結婚おめでとう。」
新しい人生を踏み出す二人に、心からの祝福を。
おわり