これは、さくらと小狼の日常生活を描写したものです。 なお何話まで やるかは決めておりません。
作: 京成特急for佐倉
小狼のマンション。 6:30、部屋に目覚まし時計の音が鳴り響く。
「もう朝か...」 いくら朝に強いとはいえ、強行帰省した身ではつらい。 旧正月 (2/9–11) のため、祝日だった金曜日の朝イチに成田を発つ便で香港に帰り、 金・土と実家に泊まって、昨日の最終便で戻ってきた。友枝の自宅の鍵を開けたのが 午前1時ぐらいで、それからすぐに寝たが、2泊3日の疲れは完全にはとれ なかったようだ。
「そうだ、学校だ... 起きなきゃ。」 起きあがると目覚まし時計のベルを 止めた。 デジタルのその時計を見ると、日付が [2005-02-14 月] と なっていた。 少しは回復した小狼に、疲れがどっとのしかかった。 「そうか、今日だったのか...」
小狼はこの日が苦手だった。 さくらと同じ星條に進学したが、入学生の3割以上が 友枝中からのため、顔見知りが多い。 そのためこのカップルは星條でも有名で、 しかも二人ともかなりもてる。 なので、女子はチョコを持って小狼の所に殺到し、 男子はさくらのクラスの前でチョコを待ちながらふらふらしているのが、 毎年この日に見られる光景なのだ。 まあ前者はともかく、後者は数戦全敗のはずだ。
偉 「小狼様、今日はカバンを用意致した方がよろしいでしょうか?」
小狼 「ああ、頼む。」
カバンは、チョコを入れるためのものである。 去年は、このカバンがなかったためにチョコを 持ちきれず、結局偉が呼んだタクシーに乗って帰宅した。 チョコの包みを抱えて一人 タクシーに乗り込むというのも、結構恥ずかしかった。
朝食を終えると、通学用のバッグとチョコ用の大きいカバンを持って、小狼は外を出た。
さくら 「ほえ〜〜〜! 遅刻だよぅー!」
...と、まあ、こちらもいつも通りの光景が繰り広げられていた。 しかし、寝起きで ある当の本人は今日がバレンタインデーという事に気付いていないらしい。 ただ チョコが食べたいだけの大甘党、ケルベロスがさくらにきいてみた。
ケロ 「おいー、さくらぁ、今日何の日か忘れてへんか?」
さくら 「ほえ? 何の事?」
ケロ 「(ガクッ) ... なーに忘れてんねん! わいの好きな茶色で 甘いもの渡す日やないか!」
さくら 「あっ! 冷蔵庫にチョコ入れっぱなしだー!」
ケロちゃんの質問はあっけなく流された。 さくらは着替えると急いで階下に 降りた。 キッチンでは、すでに藤隆が弁当を用意していた。
さくら 「おはよー、お父さん!」
藤隆 「おはようございます、さくらさん。」
先に断っておくが、兄の桃矢は羽田の空港内で働く事になり、この家を出たものの、 やはりさくらの事が心配なのか、家から500メートルの所にある独身者向け アパートに住んでいる。 よって、今この家に住んでいるのは、さくらと 父の藤隆 (とケロ) だけである。 さくら「あ、お父さんには今のうちに渡しとくね!」
藤隆 「ありがとうございます。 さくらさん、一生懸命作ってましたからね。」
さくらは星形の大きなチョコを渡した。 そして、渡すチョコをすべて持った事を 確認し、家を出た。 ...と、忘れ去られている人 (?) が約1名。 窓から さくらを見送るケロである。
ケロ 「さくら、完全にわいの事忘れとる...」
星條高校、生徒昇降口。 登校時間を回り、生徒達でごった返す。 それに、 今日はどこかよそよそしい雰囲気が漂う。
そんな中、小狼が着いた。すぐ、友人で、クラスメートの原と山本 祐樹が来た。
山本 「お、李じゃん! なんだよそのでけえカバン?」
その問いに小狼は浮かない顔で答えた。
小狼 「見てれば分かる。」
といいつつ、下駄箱の扉を開ける。 ガチャ、バラバラバラ... 下駄箱に入っていた、 というより詰め込まれていたとでもいうような大量のチョコが、 下駄箱から雪崩のように落ちた。
原 「そういう事か...」
山本 「うわぁ、いいよなぁー、お前がうらやましいよ。」
原 「いや、それにしても、これはちょっと気の毒だな。」
妙に納得させられた原に、小狼をうらやましがる山本の三人で片っ端からチョコの 箱を拾い集めて、教室へと向かった。ちなみに、小狼は2組、さくらは 5組である。 予想通り、引き出しの中にも5個ほど入っていた。 登校時点で すでに10個を超えている。 だが、これでも20個以上いっていた中学のときより 低いペースである。
一方、さくらのクラス前の廊下では、数人の男子が群がっていた。 そこへ さくらがやってきた。 それを見た男子の一人がさくらに声をかけた。
男子 「あの、木之本さん。 義理でいいからチョコ無い?」
さくら 「ごめんなさい。 義理は作ってないんです。」
そういいながら、教室へ逃げ込むように入った。 さくらのクラスには千春と神尾がいる。
千春 「おはよう、さくらちゃん、朝から大変だね... もう! 全く、男子は何考えてんのよ!!」
さくら 「う、うん... (汗)」
神尾 「でも、廊下の連中の気持ちも分かる気がすんだけどな...」
千春 「あんなちゃらちゃらしてる人達の気持ちが理解できないわよ。 李君っていう 彼氏がいる事知っててやってるんだから。 ひどいわね。 まだ山崎君の 方がましよ。」
「彼氏」 の名が出たとたん、さくらの顔が赤くなった。 「そういえば、小狼君にはいつ渡そうかな...?」
休み時間も、小狼は何度となく呼び出されてはチョコをもらっていた。 チョコの数は、 すでに3〜4時限の休み時間の時点で、中学の時の最高記録を超えていた。 さくらも、 何回も男子に声をかけられたが、いつも逃げるようにしてその場を去っていた。 そのため、 互いのクラスには、とてもではないが行ける状況ではなかった。
そして、昼休み、山本、原、神尾、そして小狼の4人は、屋上で昼食をとっていた。
原 「食後のチョコはしんどいな...」
神尾 「うわ! これ甘っ!」
山本 「っていうか、なんで李がもらったチョコ、俺たちで 消費しなきゃならないんだよ。」
小狼 「全部一人で食えるんだったら食ってる。 俺の身にもなってみろ。」
原 「そうだぞ山本、星條1年のいい男 No.1の手助けに協力しろよ。」
山本 「そりゃそうだけどよ、誰が作ったか分かんないチョコより、木之本からの チョコが欲しいんだよなー。 当然義理だけど。」
他三人 「......」
さくらは、5組の千春、井原 美紀、吉田 小百合、7組の利佳、川村恵、 高橋有希恵の7人で、部活のため、グランドそばの芝生で昼食を とっていた。 全員チアリーディング部である。
小百合 「そういえば、みんなチョコあげた?」
千春 「私は昨日のうちにあげたよ。 山崎君 千葉に住んでるし。」
有希恵 「私まだなんだ。 サッカー部の先輩に渡すの。 みーは?」
美紀 「うち、さっきみんなにあげたのだけで、男子にあげるのはないから... めぐは?」
恵 「あたし、彼氏には家に帰ってから渡す。 近所だし。 さくらちゃんは? 毎年李君に あげてるんでしょ?」
さくら 「うん。 小狼君のは一応持ってきたんだけど、あの騒ぎだし、 放課後待ち合わせて渡すよ。」
利佳 「その方が無難よ。 さくらちゃんだって男子がたかってくるし。」
小百合 「そうよ。 男子って意外としつこいから。 で、利佳は 「旦那さん」 に渡したの?」
利佳 「う、うん (照)。」
香織・美紀・有希恵 「いーなー。あつあつじゃん。」 「朝もいっしょに通ってるもんねぇ。」 「いいなぁ。 かわいい奥さんがいて。」
千春 「そういえばゆりは? 男子にはあげるの?」
小百合 「... あたしは、ここに来る前渡してきた。」
利佳 「誰? よければ教えて。」
小百合 「... ごめん、さくらちゃん、李君にあげたんだ。」
他「えっ...」
さくら 「ゆり、そんな気にしなくてもいいよ。 小狼君 毎年たくさんチョコもらってるし。」
香織 「そうよ。 そういえば噂なんだけど、「李君親衛隊」 っていうのが 出来たらしいよ。」
さくら 「ほえー、そうなんだ... (汗)。知らなかった。」
ホームルームが終わり、放課後となった。 教員研修会のため、部活もない。 さくらは 友達と別れ、高校の前にあるバス停に向かった。 駅前で知世と待ち合わせている ためである。 知世は同じ練馬区内の進学校に行ったので、互いに部活が 休みの日しか会えない。
バスを待っていると、見覚えのある姿が見えた。大声で呼びかけた。
さくら 「小狼くーん!」
小狼 「さくら、バスなんか乗ってどこ行くんだ? 自転車じゃなかったのか?」
さくら 「ううん。 今日は歩いてきたの。 知世ちゃんと駅前で会う約束してるから。 小狼君も来る? 多分喜ぶよ。」
小狼 「そうだな。 ここ最近会ってないし。 それに、早くここから離れたいし。」
さくら 「ほえ? どうして?」
その時、友枝学園駅北口行きのバスが来たので、二人とも乗り込んだ。 座席に すわってから小狼は答えた。
小狼 「これ以上もらうととんでもない事になる。 神尾達にも分けたが、 まだたくさん残ってる。」
さくら 「つくづく小狼君も大変だね。 でも、もらってくれれば相手も嬉しいと思うよ?」
小狼 「それにしたって限度っていうものがあるだろ。 まだ10個以上あるんだぞ。」
10分ほどで、バスが駅前に着いた。 待ち合わせ場所に行くと、すでに知世がいた。
知世 「さくらちゃん。 李君もご一緒ですのね。」
小狼 「うん。 小狼君、今日はたくさんチョコもらって大変だったんだって。」
小狼 「このバッグの中身全部だ。」
知世 「まあ! かなり多いですわね。」
三人は、とりあえず近くのカフェに入って、腰を落ち着けた。
知世 「では、さくらちゃん、これをどうぞ。」
さくら 「ありがとう! 知世ちゃんにもあげるね。」
こちらも毎年恒例となっている、知世とさくらのチョコ交換である。 最近は 義理などより、友達にあげる (交換する)、いわゆる 「友チョコ」 というものが 割合的に多い。さくらと知世も例外ではなく、ほとんど (知世は作った分全て) が女子に あげる分だった。
知世 「ところで、今日はお二人ともチョコをお渡しになったんですか?」
さくら 「ううん。 まだ渡してないんだ...」
小狼 「あ、後で家に寄ってくれないか? その... 家に置いてきたから、帰ってから渡す。」
さくら 「うん!」
この二人とともにカフェに入ってから、店内が明るくほんわかした雰囲気に なった事に気付いた知世は、 「このお二人、自然と周りの雰囲気を柔らかく してますわね。 これこそ本当の癒しですわ!」 と心の中で叫んでいた。 無論、 一番癒されているのは知世なのだが。
その小1時間後には、二人は小狼のマンションにいた。 偉は小狼と入れ替わりに 夕食の買い物に出かけた。 さくらと小狼の二人きりでゆっくりしてもらおうという、 彼なりの気遣いである。
さくら 「ごめんね。偉さんにも気を遣わせちゃって。」
小狼 「いや、大丈夫だ。今、紅茶入れるから待っててくれ。」
さくら 「いいよ。 私も手伝う。」
そうして、二人は紅茶と菓子の準備をし、やっと落ち着いた。
さくら 「じゃあ、小狼君には、これね。」
そういって、さくらはカバンからチョコを出した。 ハート形の大きいチョコと、 そしてなぜか星形の小さいチョコが入ったものがあった。
小狼 「星形の方は何だ?」
さくら 「偉さんのだよ。 結構長いおつきあいだけど、甘いものは苦手かなって 思って作ってなかったの。 だから、今年は作ってみたの。」
小狼 「ありがとう。 偉も喜ぶ。 それと、俺からはこれだ。」
といいつつ、出したのは今飲んでいるものと同じ銘柄の紅茶だった。
小狼 「毎年チョコだったから、今年は別のものをあげようと思ってたんだ。 そしたら、長姉の芙蝶姉様がこれを奨めて...」
さくら 「そうか、連休は旧正月で香港に帰ってたんだよね。 ありがとう! おいしく いただくね。」
しばらくして小狼は、家に帰るさくらとともにマンションの玄関まで 出てきた。 すると目の前に、見覚えのある4WD車が止まっていた。 桃矢の車である。
桃矢 「やっぱりガキの家にいたのか、怪獣。」
さくら 「お、おにいちゃん! なんでこんな所にいるの?」
桃矢 「誕生日と今日ぐらい、お前の行動は読める。 さっさと帰るぞ。 ユキが待ってる。」
さくら 「え? 雪兎さん来てるの?」
桃矢 「ああ。」
さくら 「分かった、ちょっと待ってて。」
そういうと、さくらは小狼の所に戻った。
さくら 「小狼君。」
小狼「何だ?」
小狼がその一言を言い切らないうちに、左の頬に何かが温かいものが触れた。 そして、
さくら 「また明日ね!」
と言って、桃矢の車に乗り込んだ。 車が走り去ってから、 ふと気付いた。 「さくらの顔、赤かったな... はっ! という事は... さっき 頬に触れたものは... ま、まさか、キ、キ、キス!?」
買い物袋を提げて帰ってきた偉が、マンションの前で顔を真っ赤にして立っている 小狼を見て、首をかしげたのはその数分後の事である。
さくらが夕食を食べ終え、雪兎と桃矢にチョコを渡し、風呂から上がり、 寝ようとしたときの事だ。
ケロ 「さくら〜、わいの分はないんかぁ?」
さくら 「あ、ごめん、今 冷蔵庫にあるの。 でも、もう遅いから、食べるのは 明日にしてね。」
ケロ 「んなアホなぁ〜」
最後の最後まで忘れられていたケロだった...
一方、ケロをすっかり忘れていた当のさくらは、帰りがけに小狼にした事を 思い出していた。 「な、何であんな事しちゃったんだろ...」
似たもの同士とでもいえばいいのか、やはりこちらも顔が真っ赤だった。
第1話 終
「旅立ち」 が未完なので、それの援護射撃的なお話です。 一応続けるつもりですが、 何とか先に 「旅立ち」 を作っていくつもりです。
それにしても... オリキャラ多すぎ? 「旅立ち」 と共通のオリキャラを
除いても結構多い気が... それと、最後はちょっと甘くしてみました。 自分は
これが精一杯です。