まじかる科学探偵団

作者: Yuki Neco

終章

十月の終わり、光子は物理学科の校舎から出てきた。 松崎助教授の研究室の大学院生向けのセミナーに出席できた嬉しさを感じていた。 新しいことを学ぶのって楽しい! 二年生の授業は退屈だったもの。 その日は、松崎助教授が光子のために用意した場所に出席する初日だったのだ。

「あ、有賀さん、なにかあったのですか?」 知世の声がしたので、光子は振り返った。
「実は、今日、松崎助教授の研究室に行く初日だったんです。 楽しかった!」
「ところで、先週、猪本教授、父親の方が有賀教授を訪ねて息子の愚行をわびたんですって。 でも、その直後、有賀教授と取っ組み合いのケンカになったのだとか。」
「そうなの。」 光子は、みっともなさそうに答えた。 「だって、猪本教授が、『息子がご迷惑かけてすみません。 あんな女子大生が作った数式なんか真に受けてバカなやつです。』 なんて言ったから、お父さん激怒しちゃったらしいの。 それで、お父さん、顔にいっぱい引っかき傷を作って帰ってきたんです。」 光子は恥ずかしそうに笑った。
「まあ、本当に猪本教授とお父様は犬猿の仲なのですね。」 知世も笑っている。
「桜狼探偵事務所と一緒にいた頃は、あれで結構、楽しかったな。 木之本さんと李さんはお互いに信頼しあう難攻不落のカップルですね。」 光子は空を見上げて言った。
「有賀さんが、二人の仲を引き裂きそうになったおかげで、以前よりも二人の関係は密接になりましたわ。」 知世は皮肉っぽく言った。
「なんのことですか?」
「おほほ、何でもありませんわ。」

「ところで有賀さん、今日はお願いがあって来ましたの。」 知世は後ろに手を組んで目を輝かせながら言った。
光子は悪い予感を感じて、冷や汗をかく。 「お、お願いって...?」
「来月には星和大学祭がありますよね? ミス星和大学祭コンテストに出てみませんか?」
「な、イヤです。」
「どうしてです?」
「だって、水着審査とかあるんじゃないですか?」 光子はうなるような声で言った。

「そんな時代遅れの審査はないわよ、バカね。 ミス星和大学祭コンテストは、美しさと知性と健康を兼ね備えた女性の戦いよ。」 二人以外の声が届いた。 たまたま通りかかった小笠原美澄だった。 「むしろ、胸がない有賀光子さんにはラッキーだったわね。」
「なんですって、小笠原美澄!」 反射的に光子は声を上げる。 次の瞬間、美澄が藤崎でない男子を引き連れてかばん持ちさせていることに気づいた。
「あら、小笠原さん、もう新しいかばん持ちを見つけましたの?」
「かばん持ちじゃなくて、カレシよ。 ついさっき、そこでバッタリ会って、私のために荷物を持ってくれているだけよ。 言うならば、美人の特権ってやつ? まあ、あなたにはいつの間にか男子を惹きつけるわたしの立場を理解できないでしょうけど。」 美澄はあしらうように笑った。
「それはどーゆージョークかしら、小笠原さん。」
「まさか、あなた、あたしより美人だなんて思ってないでしょうね。 勝負は三年前についているのよ。」
「しつこい...」 光子はうなった。
「いいわ。 もう一回、チャンスをあげましょう。 でも、これが最後。」 ライバルは挑発的な笑みを浮かべている。 「ミス星和大学祭コンテストで私とあなたの勝負よ。 戦ってみる、それとも、逃げる?」
「うけてたつわ!」 光子はライバルを指差して強く答えた。
「有賀さん、その意気ですわ。」 知世は嬉しさで目を輝かせている。 「それじゃ、コンテスト用の衣装はわたしが作りますわ。 有賀さんの魅力を引き立たせるよいテーマを考えないといけませんわね。」

その時、光子と美澄は厳しい表情でにらみ合っていた。 どちらかが相手の癇に障ることを言った瞬間につかみ合いのケンカが始まりそうな、一触即発の状況だった。 光子にとって、エキサイティングな日々が再び始まろうとしていた。

Fin.



おわりに さて、皆様、楽しんでいただけたでしょうか。 このフィックは、シリアスな中にコミカルな要素を織り交ぜて 構成したつもりです。謎解きというほどではありませんが、 一応、前半の章でちりばめた伏線を第8章で説明した形に 収めることができました。 また、主人公の理系女子 有賀光子は、ハーバード大学の女性物理学者 リサ・ランドール先生を少しだけ意識し、物理学の天才として書いてみました。 (ランドール先生に失礼かもしれませんが...) このフィックを繰り返し読んでいただけるくらい楽しめていただけると 幸いです。

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