まじかる科学探偵団

作者: Yuki Neco

第3章 光子のライバル

さくらと小狼は、光子が履修している松崎憲次助教授の相対性理論の講義に、光子にも黙って忍び込んでいた。 最後列の席から眺めると、光子が退屈そうにしているのが二人にはわかった。 講義の内容は大学に入学する前にマスターしているだろうが、大学の規定の単位をとらないといけないので光子の出席しなければならないのだった。
「おい、あれ。」 小狼はさくらの肩をたたき、ささやいた。 「有賀の隣に男が座っている。 あれはカレシか?」
「そうじゃなくて、昨日、有賀さんを助けた藤崎徹って人よ。」 とさくらは小さい声で答えた。
「襲われる前、有賀さんにクラスメートだと認識もされてなかったのに、あの後、あんなふうに付きまとってくるようになったみたい。」
「ふぅん、あれが有賀を助けた男か...」 と小狼はつぶやく。
「でも、ほら、あの先生、カッコいいね。」 と、さくらはつややかなロングヘアーの美形である松崎憲次を見て瞳を輝かせて言った。
「科学者なんて身なりを気にしないなんて思ってたけど、単なる偏見ね。 あの人、芸能人みたいにカッコいいね。 有賀さんの気持ちがわかる気がする。 彼女、きっとあの先生に恋してるわ。」
「こっちは、松崎と藤崎を同時に見れてラッキーだったな。」 小狼はぶっきらぼうに言った。 「さて、外に出て関係者の噂でも集めよう。」


さくらと小狼は中庭のベンチに座っていた。
「有賀さんって、物理学科だけでなく、理学部全体でもすごく有名な人なんだね。」 と、さくらは光子の評判について話した。 「理学部って女の子が少ないからだけど、美人だし、有名な物理学者の娘ってこともあって大学で目立つ存在みたい。」
「逆に、有賀にクラスメートということを昨日まで認識されていなかった藤崎徹について。」 と、小狼が報告を始めた。 「しかし、やつは内気な人間じゃない。 彼は今年の春、超常現象研究会というサークルを発足し、自分で部員を集めたらしい。 昨日は、有賀が2人に襲われているところを助けということか...」
「怪しいわね。」
「ああ、そうだな... って、え?」小狼は、自分の言葉に答えたのがさくらでないことに気づいた。
その声の主はその場を通りかかった小笠原美澄だった。 「有賀光子のことを怪しいと言ったのよ。」
「あ、ひょっとして、有賀の天敵か。」
「その言い方は失礼よ。 有賀さんのライバルって言わなきゃ。」
「ふん。」 美澄は腰に手を当てて話し始めた。
「有賀光子は人のカレシに手を出すとんでもない女よ。 男を従わせる方法を知ってて、うるうるした瞳でお願いすれば男はあの女の言いなりよ。」


光子はさくらと小狼が待つ図書館にやってきた。 光子は知世のボディガードと一緒に二人がいる机まで歩いてきて座った。 光子が座るとすぐ、小狼は彼女を叱る。
「大道寺から聞いた。 昨日ボディガードを学校の門で待たせて、その時に2人に襲われたって。 不注意だ。 自分が危険な状態だって理解しないとだめだ。」
「ごめんなさい。」 と光子は謝りながらカバンから何かを取り出した。 小型ボイスレコーダとメモリスティックだった。
「その2人の声を録音したから、周波数解析や声紋分析できますよね。」
「有賀さん、すごいわ。 いつもボイスレコーダを持ち歩いているの?」
「最近、誰かに見られている気がしてたから、もしものためにボイスレコーダを持ち歩いてたの。 昨日は、襲われているときに、何とかポケットの中で録音ボタンを押せたの。」
前の日に腰を抜かし、泣き出すほどの恐怖を感じながらも、光子は襲撃者の音声を録音していたのだ。今でさえ、その恐怖を感じさせないよう、毅然とした態度で話をしている。 どうも、有賀光子とはそのような性質をもった女性のようだ。

「あの、有賀さん、ついさっき小笠原美澄って人に会いました。 高校からのお友達?」
「小川沢美澄が?! そんなわけないでしょ!」 光子があまりにも大きな声を出すので、周りの人々の迷惑そうな視線が光子に集まった。光子は引きつった表情で冷や汗を流し視線を泳がせたが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「おほん、ごめんあそばせ。 みなさん、気にせず読書にもどってくださいな。」
「なんかムカつくけど、こいつ、育ちはよさそうだな。」 と小狼は皮肉っぽくつぶやく。
「小笠原美澄は友達なんかじゃないわ。」 イラついた面持ちで光子が答えた。
「そいつの言葉を信じているわけじゃないけど、聞いた話では、あんたはミスコン荒らしで、人のカレシをとるとんでもない女だって。」

「あれは、あの女が勘違いしているだけ。あたし、あの女が言うようないやらしい女じゃないわ。」 光子はさらに話を続けた。
「三年前のあの日、大道寺さんと森川高校の学園祭に行った日のこと。 高校2年生だった。 大道寺さんがあたしに、ミス森川祭グランプリに出たらと勧めてきたの。」
「あ、あたしも知ってる。 ミス森川祭って校内だけでなく他校の参加者も受け入れるミスコンが名物よね。」 と、さくらも説明に加わった。 「その一年前、あたしも知世ちゃんと森川祭に行ったんだけど、やっぱり、あたしにも出るように勧めたの。」
「そうなんですか。 それで、木之本さんも?」 と、光子は尋ねた。
「ううん、恥ずかしいからイヤだって断っちゃった。」
「え、断ってもよかったんだ。」 光子は恥ずかしそうにつぶやいた。
「そいうえば、そのときミス森川祭に選ばれたのは小笠原美澄さんだったな。」 さくらは左上を見上げながら言った。
「そう、あの女は森川高の女王だったらしいわ。 ミス森川祭に三年連続で選ばれたんですって。 それだけでなく、生徒会長も2年間つとめて文字通りの森川高の女王だったみたい。」
「小笠原美澄さんが言うには、そのミス森川祭が終わったときに、あなたがカレシを奪ったってことだけど、それが誤解だということね。」 とさくらは確認する。
「カレシを奪うだなんて!」 光子は怒ったように答えた。 「実は、ミス森川祭の実行委員の人が小笠原美澄のカレシの一人だったの。」
「カレシの一人って?」 さくらは訊きなおした。
「ええ、小笠原美澄は間違いなく、何人もカレシがいると思うの。それで、ミスコンが終わって、その実行委員の人があたしに会いに楽屋に来たんです。 それで、しつこくあたしのケータイ番号とかアドレスを聞き出そうとしてきたの。 その現場に小笠原美澄がやってきて、あたしが彼を誘惑したと思っているの。」

光子は、小笠原美澄に始めて会ったときの事を思い出した。 三年前の出来事だった。 光子は大道寺知世が勧めるようにミス森川祭に学外参加として出場した。 学外参加者としてめったにないと噂されるように、光子は第3位の準ミスを勝ち取ったのだ。 ミスコンが終わって、光子が一人で楽屋に残っていると、目つきが鋭くカッコいい男子がノックをして楽屋に来た。
「あれ、いたの?」 その茶色の直毛の男子生徒が光子に話しかけてきた。
「早坂高校の有賀光子さんだっけ?」
「ええ、今、出て行きますから。」 光子は楽屋を出ようとした。
男子学生は出口に立ちふさがった。「第3位とは惜しかったね。 キミならミス森川祭に選ばれると思ったんだけど。 でさ、ケータイ番号とアドレスを交換しようよ。」
「ごめんなさい、もう行かなきゃ。」
そのたちの悪い男子は聞こえないふりをしてして、嫌がらせを続けた。 「ブレザーの制服って似合うね。」
そう言いながらながら光子の髪に触れるので、光子は脊髄に寒気が走るのを感じた。
「いい加減にしないと大声出すわよ。」
それでも聞かずに、ゆっくりと彼が歩み寄ってきた。この男子はぜったに変なことをするつもりだ。すでに目つきがいやらしい。あたしのいろんなところをジロジロと見ている。 危機を感じた光子はそばにあった箱をつかむと投げる。ちょうどその時、勢いよくドアが開いた。 小笠原美澄だった。 あぁ、助かった、と光子は安心した。
「そこにいるのは誰?」 美澄は部屋に入り、中で見つけたことに驚き、釣りあがった目を大きく開いた。
「あなた、一体、何をしているの?!」 と、大声を上げた。
あぁ、助かった。光子は震えながら安堵を感じた。
「あなたよ、あなた!」 美澄が怒っていた相手は光子だったのだ。 「あなた、わたしのカレシを誘惑していたのね?」
「誘惑ですって? それがそんな状況に見える?!」 光子は言い返した。
「おだまり! あなた、早坂高の有賀光子ね。 ふん、ムカつく女の名前は一度で覚えるわ。 最初に見たときから気に入らなかったのよ。」
「あたしが誘惑したかどうかは、そこのスケベ野郎を問いただせばわかることだわ。」 と光子は言い返すが、光子に接近したそのスケベは既に逃げていた。
「スケベ野郎って... 人のカレシに向かってなんて下品な言葉。 あなた、恥を知りなさい。」 褐色の髪のその女子学生は光子の言葉でさらに憤慨し、しゃべり続けた。
「有賀さんってホントにいやらしい女ね。 ミス森川祭の優勝者のカレシにまで手を出すなんて。 早坂高... 略すとH (エッチ) 高ってことはあるわね。」意地悪な言葉を投げかけた。
「なに? それって笑って欲しいの?!」
「とにかく、他校のミスコンに飛び入り参加して、問題を起こすなんて態度が悪いにもほどがあるわ。」 美澄は吐き捨てるように言った。
「あら? ご存知だと思うけど、ミス森川祭って他校の参加も受け入れるのよ。 今年は17人の参加者のうち、8人が他校の参加者だったじゃない。」
「まあ、わたしに口答えするつもり? 第1位を勝ち取った人とせいぜい第3位だった人では、どっちが美人でどっちがブスか、おわかりよね。 有賀光子さん。」 美澄は挑発的な態度だ。
「なんですって?! あなたなんて、真っ赤な燃えるような髪の毛に、挑発的な目つきで、少女マンガの主人公になんかなれない。 ぜいぜい、意地悪役どまりのクセに!」
みんなどうかしてるわ。 こんなわからずやが第1位だなんて。
みんなどうかしてるわ。 こんな泥棒ネコが第3位だなんて。
光子と美澄は、相手のことを忌々しく感じていた。 当然、そんなことはミスコンの審査対象であるはずもないのだが。

「あの、有賀さん、大丈夫?」 と、さくらは光子に声をかける。
「え... あ、ごめんなさい。 ちょっといやなこと思い出したの。」 光子は額を手で押さえた。 「ホントにムカつく女。」
「今回の事件に関係ありそうな人を挙げて調べた。 その調査結果を報告する。」
小狼は調べた人の名前を言い始めた。 調べた内容は次の通りだった。

有賀 学 光子の父親であり、理論物理学のガイドブックの著者として有名な物学者である。 論文や執筆中の本の締め切りが近づくと仕上げのために雲隠れすることが多い。 その隠れ場所は、娘の光子にさえも内緒にしている。 今回は数週間前から雲隠れをしている。 それとほぼ同時期に、有賀光子の回りでいつもと違うことが起こり始めた。

松崎 憲次 相対性理論と量子力学の新しい講師であり、以前は有賀教授の助手だった。助手をしていた頃、有賀教授の論文の仕上げのため雲隠れに同行したことがあるが、今回はどこに雲隠れしたかを知らない。 それで光子をオフィスに呼んで隠れ場所を聞き出そうとした。 ひょっとして有賀教授の研究を狙っているのかもしれない。

「ちょっと待って。 どうして松崎先生が出てくるのよ?」 光子は報告を中断させ、小狼を指差して不服そうに質問した。
「落ち着いて、単なる可能性ってことだから。」 さくらが説明した。
「あんなカッコいい人が、悪いことするわけないじゃない。」 光子は夢見心地だ。
「はいはい、勝手にしろ。」 と、小狼は言って報告を続けた。

藤崎 徹 光子のクラスメートだが、哀れにも最近まで光子に認識されていなかった。とは言え、彼は内気なタイプではない。 逆に、今年の春、超常現象研究クラブを発足し、自ら部員を集めて回ったほどである。 部員数は全部で10人、そのうち7人が女子であるのだから、謎である。 はっきりした動機が見つからないが、現れるタイミングがいかにも怪しい。 やつのクラブを詳しく調べようと思う。

小笠原 美澄 女性の魅力という分野なのか、とにかく、有賀光子のライバルである。常に数人の美形の男子を身の回りに置き、彼らをカレシと呼んでいる。 しかし、実際は自己顕示の道具なのだろう。 大道寺知世のように裕福な家庭で育ったようだが、大道寺知世と異なり横暴な性格のようだ。 三年前に有賀光子にカレシを誘惑されたという勘違いで恨みを持っている可能性があり、リストに加えておいた。

正体不明の二人 松崎助教授のオフィスに向かう有賀光子を襲った。 この二人は単なるザコで、黒幕がいるはずである。 二人は松崎助教授の呼び出しを偽装して有賀光子を待ち伏せた。 その事実から考えて、松崎助教授以外の誰かの指示に従っていた可能性がある。

さくらをちらりと見た後、小狼は光子を見た。 「今あげた人物の中で、有賀さんのお父さんを調べようと思う。 つまり、有賀教授の隠れ場所を突きとめるんだ。」
「だから、有賀さん、栗山大学の有賀研究室に同行して。 有賀さんがいれば、助手の方も情報をくれやすいと思うの。」
「じゃ、大学にアポをとればいい?」 と光子は尋ねた。
「いや、アポをとらずに行く。」 小狼は首を振った。 「今から行くぞ。」
「今から?!」



衝動的に3人の大学生は電車に乗って栗山大学に向かった。 一時間かかった。有賀研究室に入ると、助手の一人が応対してくれた。
「有賀教授に会いたいのですが。」 と、小狼が言った。
「あの、有賀教授は最近、留守にしていますが。 どなたですか?」 応対してきたのは有賀学の助手らしい。
光子が前に出た。「父に会いに来ました。 あたし、娘の有賀光子です。」
光子は身分を証明するために学生証を見せた。 光子の顔と学生証を見比べると、助手は微笑んだ。 「よくいらっしゃいました。 来たらオフィスに通すようにと教授から言われています。」
「どれくらい教授は留守にしてるんです?」 小狼がたずねた。
「二、三週間です。」 助手が答えた。 「あ、三日前に一度戻ってきましたね。」
助手は教授のオフィスを開錠して三人を中に入れた。 光子が入る瞬間、光子の耳元で、「メッセージです。 真実の鍵は宇宙の基本的な力のもとにある。」
「え?」 光子は振り返った。
「きっとわかると、教授が言っていました。」 助手はそういいながら微笑んだ。

「この部屋に有賀教授が手がかりを残してるってことかな。」 さくらは言った。
「きっとな。 だから、有賀がわかるようにメッセージを残したんだろ。」
「あ、これは!」 光子が息を飲んだ。
「どうしたの?」 さくらは光子のほうに振り返って尋ねた。
「あたしたちの前に、この部屋に誰かが入ったみたい。」 光子は恐怖を感じているように声を震わせた。
「なぜ、わかる?」
「机の鉛筆立てが右側にあるから。 お父さんは左利きだから、置いている方向が逆なの。 ヘンだわ。」
「襲ってきたやつらだな。 この部屋で何かを探したに違いない。 何も発見してなければいいのだが。」
「これ!」 さくらはダイヤルが4つある引き出しを指差した。 ダイヤルにはすべて数字の代わりにAからZの文字が書かれていた。
「これが、お父さんが隠している大事なものの鍵なのね。」 光子はどきどきしながら言った。 「でも、アルファベット4文字で作れる文字列の組合せは26の4乗だから... 45万通り! 五秒ごとに1パターンずつ確かめたとして、すべてのパターンをチェックするには休まずに続けても1ヶ月かかる計算ね。」
「真実への鍵は宇宙の基本的な力のもとにある、が鍵を開ける手がかりかしら。」 さくらはダイヤルをまっすぐに見た。 「基本的な力って、風、水、火、土みたいな?」
「さくら、いい線いってるぞ。 でも、有賀教授は現代物理学が専門だから、強い力、弱い力、電磁気力、重力のことだと思う。」
「ええ、あたしもそう思うわ。」 光子がうなずいている。
「それって何?」 さくらはよくわからないといった顔をしている。
「宇宙はその4つの力で支配されているの。 強い力は陽子と中性子を引き合わせて炭素や酸素のような原子核をつくるし、弱い力は放射崩壊を引き起こす。 電磁気力は電気や磁石の力、重力はアイザック・ニュートンが発見した地球とリンゴをひきつける力。」
光子は説明を続けた。 「だから、その力の英語名のイニシャルS-W-E-Gを並べ替えた文字列のどれかよ。 可能な組合せ数は24通り。」
「で、運が悪ければ24個のパターンをすべて試すってことか。」 小狼はため息をつく。
「そうね。 でも、45万通り試すよりずっとましでしょ。」 と光子は気取った口調で言った。
「それしかないなら、やるしかないよ。」 さくらは行動を勧める。
「うふふ、心配しないで。 実は、作戦があるの。 S-E-W-Gの順で試して。」
小狼は淡色の髪の女子学生が言ったとおりにダイヤルを回した。
「だめだ。」 小狼は首を振った。
「なら、G-S-W-Eを試して。」
小狼がダイヤルを回してセットすると、中でカチっと音が聞こえた。
「うまくいった!」 小狼とさくらは声を上げた。 引き出しが開いた。
「どうして順番がわかったの?」
「初期の宇宙で発生した順に名前を並べたの。」

引き出しの中には紙切れとSDカードが入っていた。 紙切れには次のようなメッセージが書かれていた。

光子、よく見つけてくれた。
雲隠れしたことが予想外の悪いことをおびき寄せたようだ。
決して、おまえを危険にさらすつもりはなかったのだが、
何者かがおまえを狙っている。 娘よ、すまない。
今は、このSDカードを受け取り、常に持っていてくれ。
きっと、お父さんと連絡が取れる方法が見つかるはずだ。

「やっぱり、偶然じゃなかったのね。」 光子はがっくりとして、SDカードを取った。
「お父さんが隠れていることが、ずっと起きていたヘンなことの原因だったのね。」
「有賀さん、こう考えてはどう? ここに来て正解だったの。 だって、真実への鍵が見つかったのだから。」
「さくらの言うとおりだ。有賀が危険だとしても、俺たちがそばにいて守っている。 だから、怖がるな。」



その日の夜、自動車が郊外の邸宅にやって来た。 若い男が車から降り、玄関まで歩いた。 鍵を開け、中に入り、男は廊下を歩いた。 それから、最も奥にある部屋のドアをノックして、返事を待たずに開けた。 部屋の中では30歳くらいのもう一人の男が机で書き物をしていた。 机の上には量子力学の数式を書いたメモ書きで埋め尽くされていた。 その男は物理学者だった。

「彼女が教授のオフィスで例のモノを発見したようです。」 部屋に入って来た男が報告した。
「我々にはあの引き出しは開けれなかったが、彼女なら開けれると思っていた。 あれが、有賀教授の居場所を示したものか、それとも、重要なデータのどちらかだ。 あの女を見張って奪い取るチャンスを待つのだ。」 と、青い瞳の物学者は報告した男に指示を出した。

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