お姫様の帰還

作者: deko

第8話: 邂逅その 2

都庁の会議室に、戦々恐々とした行政官や技術者が集まっている。

技術者 「だから、温暖化に備えて基準を改めるべきだと申し上げたのです。」

行政官 「しかし、全国の河川にそんな予算はない。 幅が 1 メートルの水路改修など。」

副知事 「今更です。皆さん、今回の災難に対してどのような技、 ええ!方法があるのですか?」

し~~~んと黙りこくる一同。が、少し立ってから起立する者がいた。

吉田達明 「雨雲の水分量から見て、生半可な施術は通用しません。」

晴雄が、注意を引こうとするが父は動じない。

達明 「河川からの集水を行っているダムの機能を使うべきです。」

都知事 「それは、どういうことかしら。」

達明 「都の水源地に入る河川からの水を遮断し、 今のうちに水源地の水を放出します。より大きなバッファを設定するのです。」

技術者 「なるほど、ダムの調節機能を生かしてか」

副知事 「では、その方向で国と協議に...」

晴雄 「その時間はありません。我々の権限で直ちに執行すべきです。」

都知事や一同が頷きながら、席を立つが、達明は晴雄を押しとどめる。

晴雄 「父さん。」

達明 「少しは、現場の恐ろしさを感じるようになったな。和美はどうしている。」

晴雄 「あんたの血ですか?私の友枝丘陵水路計画を批判してます。詰めが甘いと。」

達明 「あの状態でもか? 歩けるのか?」

晴雄 「部屋のパソコンから、事務所の人間をこき使ってますよ。」

二人だけの会議室には、笑いが残った。


大気圏内で宇宙妖怪のタコが懸命に仕事中らしい。 大気中の雨雲が押し寄せるように迫っている。

タコ 「女の子ちゃん。必ずたしゅけるから...むっ!」

恋に悩むタコの前に騒々しい一団が現れた。

ケロ 「何でワイがこんなところまで来るんや。」

ユエ 「静かに。我が主からの依頼ではないが。」

ルビー 「そうよ。だいたい、猫に虐められて、ふて寝してただけじゃん。」

スッピー 「お顔もすぐれませんねえ。まるで木枯らし紋次郎?」

ケロ 「うるへ! なんで、こんなところまで、お前らがデバってん...!」

タコの攻撃は猛烈な風と水流だったが、4 人の魔法使い従者には何の脅しにもならない。

ルビー 「さっさとこんな化けもの、叩き落として帰ろう。」

スッピー 「そうですね。エリオルはお茶には帰ってこいと申しておりましたから。」

4人は、タコとの間合いを詰めながら、大きなハリセンを取り出した。 タコはハタと後ずさったが、そこには女王が超空間に入って行くところである。

女王 「かんばってねえ!そいつら、強敵よ。」

タコ「じょ・・女王様」

振り返ったタコに一斉にハリセンが振り下ろされ、小さなキラキラ星が乱舞した。

バチーーーーーーン」

そして、妖怪タコの大きな体を支えていた子タコたちが次々に分離するに従って、 元のタコのサイズに戻りながら、墜落していった。

ユエ 「愚かな。これも作者の怠慢だ。新年からはまたTVに出なくてはならん。」


その下では日本に向かう飛行機が飛行している。小狼は物憂げに機外を見ている。 彼の心臓に打ち込まれた「結晶」 がチラッと動いたのか身じろぎした。

偉 「小狼様... お気を確かに。」

小狼 「至上たち。一体俺は、なぜ生まれてきたんだ。」

偉の傍らの少年は、あまりにも憔悴していた。


そのまた下。多摩湖の堤防では、上空の雲が急速に千切れ始める。 求心力となっていた力が無くなったからだ。 それでも、雨は降り続け、氾濫を警戒している職員が湖面を見守っている。

貴史 「三原さん。あれだ!」

千春「えっ どこ!」

二人は、警戒線のバリケードを乗り越えた。

職員 「おい!君たち。ここは立ち入り...」

貴史 「もう、大丈夫ですよ!」

二人は、そのまま堤防を走っていく。その上に、天空から赤い点が落ちてきた。

千春 「タコさん!こっちよ」

そこへ、猛烈な風が吹き込んだ。小柄な千春は足を取られ、転びかかった。 が、貴史がすかさず飛び込み、地面すれすれに抱きとめてくれた。 そして、タコが欄干に降り立ったのは瞬後だった。 この時、二人だけの世界が止まった。タコが赤くなるほど、濃厚なラブシーンである。

千春 「ありがとう。」

貴史 「よかった。ケガは無くて。」

宇宙妖怪のタコの恋は... 終わった。 彼は、青い涙を流し、その 10 本の足から強力な水ジェットを吹き出し、 離陸して、逃げ去った。

千春 「タコさん... ごめんね。」

青空が戻ってきた。


そしてもっと下・竹芝桟橋の地下世界に話は移る。 あちこちの下水から大量の水が流れている。 それは、ついこの間までの半乾燥したネズミたちの楽園に流れ込み、 ドブネズミたちを追い立て、連れ去っていた。

ホープ 「おかあちゃーん!」

女の子の絶叫は地下に反響し、難を逃れようとしていたネズミたちの耳にも届いた。

ネズミ 「ホープお姉ちゃん!」

ネズミたちの世代交代は早い。この間、一緒にビルまで上った子ネズミは、 成長していた。その姿に、リトルで小さくなったミータンは不満の声を上げた。

ミータン 「あっち。いけ」

ホープ 「だめよ! おちびちゃんね。おかあちゃんはどこ?」

ネズミ 「赤い目をした長老たちが、連れて行った。」

ネズミの鼻先が、奥まった堆積泥の穴を示した。

ホープ 「赤い目。あの人間たちがあたいの......」

そこへ、青い刃が走ってきた。ホープは、ネズミを突き放したが、 最初から刃はネズミを目指していた。 青い光がネズミを包み、治まったときには姿は消滅していた。 そこで、ホープの目前に、あの結晶体が現れた。

至上 「よく来たな。お前を待っていた。」

ホープ 「おかあちゃんをどうするつもり。もしもの時は許さないわ!」

至上 「罰さ。枝の分際で主を裏切った。覚えていないのかな?」


同じ地下世界、フライの杖にまたがったさくらが飛び回っている。 地下は多様な配管が林立し、蒸気が満ちあふれており、 そして、膨大な量の水が流れ込み、視野が効かなかった。

さくら 「危ない!」

よろけた彼女は、慌てて進路をそらした。 が、多くの廃棄物が乱立する中では自由が効かない。

さくら 「シャドウ! ホープを探せ。我を導け。」

召還されたカードは迷ったように指さした。 それは濁流となった下水の向こうだ。

さくら 「かまわない! いくよ!」

突然、目の前に子猫が逆さまに現れた。

ミータン 「ホープはこっちだ。」

さくら 「えっ! でも。」

ミータン 「あいつらは、あんた以上に力を使えるんだ。」

さくら「判った!シャドウ。シールド」

新たなカードが張り巡らした障壁。すると、シャドウの案内が変わった。

さくらは、何も迷わず新しい方向に向かった。


地下の奥まった砂原で、母ネズミは横たわっている。 周囲には 4 つの結晶体が取り囲み 「場」 を形成していた。

母ネズミ 「あなた... また遷移の時が来たわ。さようなら、ホープ...」

至上 (結晶体) 「そう悲観するな。逢わせてやろう。」

母ネズミ 「なぜ...」

結晶体 4 つ 「来たれ! 来たれ---。 迷い子よ。(唱和)」

母ネズミは、力を振り絞り、砂を搔いた。懸命に身を隠そうとした。

結晶 「無駄だ。 今だ!!!」

小さな穴から、ホープが飛び出して来た。 すると、「場」 は大きなエネルギーを得て母鼠もろとも深紅のカーテンと、化した。 ホープは、本能的に 「強い場」 を巡らした。 そしてぶつかった時、地下世界全体が大きく揺れた。 激しい衝撃が、火花と閃光が周囲を照らし出した。 それが、何度も何度も繰り返された。

ホープ 「えーい!」

彼女の発した負の力場は、至上たちの展開する 「場」 よりも遙かに強かった。 その為、赤い 「場」 は急速に力を失い、消えた。

結晶体 「すばらしい! すばらしいぞ!」

ホープ 「おかあちゃん!」

母ネズミ 「ホープ。馬鹿な子!」

ホープ 「だって、だって、おかあちゃんがホープの本当の、 本当のおかあちゃんでしょう。」

母ネズミ 「あああ、至上たちよ。至聖よ。なんと惨い罰を。」

至上 「黙れ!」

母ネズミの姿は、瞬時に消滅した。 だが、そこに、ボンヤリとした人の影が浮かんできた。

至上 「負の力の者。ホープよ。これが、我らを裏切ったお前の一族への罰だ。」

ホープ 「罰?おかあちゃんが何をしたの?」

母(影) 「やがて、貴女は、貴女自身の力で知ることになるわ。」

至上 「お前の母の罰は、永劫の輪廻から抜けることの出来ぬ業だ。」

ホープ 「永劫...」

至上 「次の輪廻はもう定まっている!行くが良い。」

ホープ 「おかあちゃん! 行かないで。」

人影はもう答えなかった。 ホープの目の前で、それはすばらしい輝きをまき散らしながら、 差し出された彼女の手を払うかのように消えていった。 至上を名乗るである結晶体たちが人間の姿に変わった。あの毛織物をまとった姿だ。

ホープ 「おのれ!よくもよくも!」

だが、彼らは微笑んでいる。成り行きに満足したかの顔だ。 そこへ、美しい羽を備えたカードキャプターが現れた。

至上 「カードの主よ、よく来た。だが、ここで争う気はない。」

彼らは、再度結晶体に姿を変え、次々に地上を目指して消えていった。

さくら 「ホープちゃん!」

ホープ 「おねえちゃん!ミータン!」

ホープの 「場」 は消えて愛らしい姿があった。 それに引き替えさくらは、ドレスが泥だらけだ。 さくらはドレスを脱ぎ捨てると、ホープをミータンを抱きしめた。

さくら「ウィンディ!フライ!」

魔法陣が輝き、二人は地上に向かった。



邂逅その2 おわり


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