作者: deko
双遠山の麓の駅から都会へ戻る列車が走り出した。 車窓には、知世、さくら、 小狼の姿。 その後では、真嬉老人と大道寺夫妻に、桃矢と雪兎がいる。 別荘の 管理人と運転手が、見送っている。
管理人: 「またのおいでをお待ちしてます」
車内では向かい合わせの席で、さくらがため息をついている。 反対側の知世は、 慰めるようにさくらの手を握っていた。
知世: 「お気になさらないでください。 瑠美ちゃんも元気でしたし、 怪我をなさった方もいらっしゃらなかったではないですか。」
さくら: 「......」
ケロ: 「ホンマや。 相手が宇宙からの力では、いかにカードキャプターでも どうしようもないわ。」
そういいながら、彼はどら焼きを2枚丸飲みにして、缶のお茶を一本一気呑みした。
小狼: 「守護者がそんな、脳天気でいいのか!」
ケロ: 「しっかし、あの最後の波動は驚いたで。 いったい何者や?」
突然、さくらが車窓にかじりついた。 あわてて、窓を開けると冷たい風が入り込んだ。
さくら: 「瑠美ちゃん!!」
眼下の踏切に瑠美と中川聡が立っていたのだ。
瑠美: 「おねえちゃーーん! ありがとう。」
さくら: 「怪我はなかった? お母さんに叱られなかった?」
瑠美: 「うん! また、また来てね。」
最後の言葉は、列車がスピードを上げたため聞こえにくかった。 そして、 さくらと小狼は見た。 中川親子が、手を握り合い懸命に手を振って 別れを惜しむのを。
知世: 「よかったですわ... ところでこの方はどなたでしょう?」
ケロ: 「わいの、どら焼きが〜!」
さくらが席に着こうとした。 しかし、可愛らしい女の子がチョコンと座っており、 ケロが食べるはずだったどら焼きを頬張っていた。
小狼: 「な、何者だ。」
女の子は満足そうに、どら焼きを平らげるや先程のケロと同じように、 缶紅茶を一気に飲み干した。
女の子: 「おだまり! ケルベロス。 静かにしないと、私が主の間は、 ずっとひもじい思いをさせるわよ。」
見事な一言でケロを黙らせた女の子は、相席の知世に挨拶をした。
女の子: 「大道寺知世さんですね。 いつもいつも、母がお世話になっております。」
次は小狼。 だが、この瞬間から彼の悩める日が始まった。
女の子: 「あなたが、李小狼さんですね。 お会いできて嬉しいです。」
この時すでに、さくらは... といいがたく、典型的なポヤヤン状態に陥った。
女の子: 「ママ! 焼き餅焼いてごめんね。」
桃矢: 「何の騒ぎだ! だれだ、その女の子は?」
騒ぎを聞きつけ、やってきた桃矢に対して女の子は実に見事な挨拶を返した。
女の子: 「おじさん!」
倒れかかった親友を抱き留めた雪兎に、女の子は明るく挨拶した。
女の子: 「初めまして。 やっぱりステキ!」
雪兎: 「君は... 未来から来たんだね。」
未来の娘はニッコリと微笑み、懐から飛び出した二枚の (模様がやや 異なっているが) さくらカードを周りに周回させた。
女の子: 「もう行かなきゃ。 小狼さん、偉望さんによろしくね。 ネオ・リターン!」
カードが輝くや、娘は立ち去った。 すると、小狼があっと驚きの声を上げた。
知世: 「どうなさいました?」
小狼: 「そうか! もう一枚はツインのカード。 偉望は最初からいなかったんだ。 だけど... り・しゃおらんさん... そんな!!」
桃矢: 「お... じさん。 おじさん...」
ゲッソリとなった小狼と桃矢を、知世は悲しそうに見守った。 だが、一同に隠れて、 足下のヴィデオは冷酷に収録を続けていたのだった。
気の毒な小狼と桃矢。 彼らの苦悩は、これから長続きすることになる。 未来の娘に 引っかき回された一同に比べ、後尾席の天宮老人は難しい顔をして、 書類に目を通していた。
お父さん: 「どうなさいました。お爺さま。」
真嬉: 「中川君の研究に、大口融資者が現れた。 国家が直接介入してきたんだ。」
お父さん: 「個人の研究では収まらなくなったということですか。 すると... 一連の事件に説明がなされるには。」
真嬉: 「長い時間が必要だね。」
早朝の双遠山山頂・野崎の天文台、ドームのスリットが開いており、 寒風の吹きずさむなかで野崎真継が、一心に望遠鏡のモニターを 見つめていた。 クロンメルト彗星が、見事な尾を天空に広げ、 夜空を駆け抜けていた。
野崎: 「さらば、我が最愛の星よ。 また、元気に戻って来いよ。 その時には、 もう少し進歩した子らが出迎えてくれるじゃろう。」
明るくなった雪原で、薄明の光の中で二匹の兎を抱いた中川瑠美は彗星を じっと見つめていた。