DESTINY

第 6 章

作者: SAKURA AKA MICHELLE
翻訳: Yuki Neco

さくらは文字通り孤独を感じた。

さくらがそのような感覚を抱いたのは、以前、城に反乱軍が攻めてきて どこに逃げるべきかを引っ張って教えてくれる家族なしにたった一人で 王国を脱出したとき以来だった。 そのとき、絶望感におそわれたが、 今いる王国には反乱軍はいないのでそんな感情を二度と感じることはないと 思っていた。 しかし、そうではなく、今、さくらはどうしようもない 絶望感を再び感じている。

その場所には暗く、十分な明かりがない。 周りのものどころか、自分自身を 見ることもできない。 息が詰まりそうで誇りのにおいがする空気。 いっそ、 その場で死んでしまったほうが楽になるだろうとさくらは思ったが、そんな ことをするさくらではなかった。 動くたびに番兵に殴られた後頭部が痛むので、 さくらは背後で結ばれた手首を解こうとしながらもじっと動かないようにした。

あの番兵が手首を自由にさえしてくれたら。 後ろ手に縛られたままじゃ 何もできない... そう思いながら、さくらは背後で縛られた手を 結ぶ縄をほどこうとした。 縄をほどこうとすると手首を縛るロープで傷がついて いるような痛みを感じた。 そんな手首の痛みは我慢できるが、そのたびに頭に 鈍い痛みが走り、やろうとしていることに集中することも難しい。

目隠しやさるぐつわされなかっただけでも、もうけものか... と、さくらは 思い、その言葉に自分を安心させ、少しは楽になった。

ドアがきしむ音を立ててゆっくり開いたので、さくらはすぐにぐったりと倒れた。 番兵が彼女の様子を見に来たのか、それとも、小狼にわからないようにして さくらを小狼から引き離すことに成功したと苺鈴が満足感を感じるために来たのかと 思ったからだ。 足音が近づいてくると、さくらはとっさに息が止まり冷や汗が 流れた。

「苺鈴姫、まだ起きてないようです。」 さくらは誰の声かわかった。 彼女を 誘拐しようとして、ここに彼女を連れてきた番兵だった。

「すぐにでも起きて、その女がいなくなって小狼がどんなに幸せに なったかを見せてやりたいものだわ。 その女は誰もが忌々しく思う ガンよ。 だって... 王家の血を引いてもいないのに、どうして上流階級の中に いるのよ? 私たちは哀れんでこの女を引き取っただけ。」 苺鈴は、さくらが 城にいてはいけないと思う理由を番兵に話し続けた。

さくらは、気絶しているフリをしている間、苺鈴が言っていることを信じる ことができなかった。 苺鈴が話しているのを聞き続けても、それが真実で ないと思っていた。 小狼があたしをそんなふうに思っているわけが ない。 彼はいつもあたしに優しかった。 小狼はあたしに哀れみの目で見ている なんて感じたこともなかった。 苺鈴姫はうそをついている!

「苺鈴姫、この女はどうしましょうか?」

苺鈴は鼻で笑いながら言った。 「寝たければ寝せておきなさい。 この女は ここに閉じ込めて、ここから出しちゃだめ。 この女は、命が尽きるまでこの場所で 幸せに暮らすのよ。」

「ここに一生閉じ込めておくってことですか?」

「当たり前でしょ?」 苺鈴はすぐに言葉を返した。 「この女は私から大切な 小狼を奪ったのよ。 だから、私も同じようにこの女から自由を奪ってやったら いけないかしら?」

番兵はうなずいて言った。 「それは件名ですとも、苺鈴姫。 ご命令には 従います。」

「そうでしょ、そうでしょ。 出るときには鍵を掛けておくのよ。 1ヶ月間、 水だけを与え、食事をさせちゃダメ。 わたしはもうここにいたくないわ。 この聴聞室は何年も使ってなくって、誇りっぽいんですもの。」 と、苺鈴は 文句を言った。

「この部屋を掃除させましょうか?」 と、番兵は申し出た。

苺鈴は大きな声で跳ねのけた。 「そんな必要ないわ。 上流階級に踏み込んだ 平民にはこの暗闇と不潔な場所で苦しんでもらうわ。 あたしが出て行ったら、 鍵を掛けて誰も入れちゃダメ。

「わかりました、姫。」


さくらのほうが庭園を先に出たと言うのに、さくらが朝食を食べにこなかったので 小狼は寂しさを感じていた。 さくらは、家族との、とりわけ、小狼の母親とのどんな 小さな会話でも楽しむことができる家族との食事に来ないことはなかった。 さくらと その母親とはとても仲がよかった。 事実、小狼の母親はほとんど笑うことがなく、 その笑顔を見たものはそんなにいなかった。 小狼は当然、母親に笑顔を向けられた ことがあるが、さくらにも同じだった。

どこに行ってしまったんだ? もう朝食から3時間だというのに、どこにいるのか 手がかりもない。 おかしなことになってなければいいけど... 何事もないよな。 と小狼は思い、考えれば考えるほど心配が募っていく。

突然、さくらに何かがあったとき彼の脳裏に思い浮かぶ名前が現れた。 「苺鈴!」


「小狼の大切なさくらがいなくなると、どうしていつも私のところに何か訊きに 来るの?」 さくらの居場所について訊きに来た小狼に苺鈴はわめいた。 「まるで 私がさくらを食べちゃったみたい。 もう私のところにさくらを探しに来るのを やめてくれない? さくらを見つけたいなら一人で探してよ。 私だって忙しいん だから、ごきげんよう。」

苺鈴が起こったように足音を立てて歩いていくのを小狼は見ながら、「苺鈴が 絡んでいないとすると、さくらはどこにいるんだ?」 と小狼は考えていた。

ちょうどその時、番兵が走ってきた。 「王子、女王様が今すぐ第2聴聞室に 来るようにと仰せです。 とても大切な話があるそうです。」

小狼は眉をひそめ息を飲み、「話があるなんて言ってたかな?」 と番兵に聞いた。

「いえ、王子様。 私はただ女王様からの伝号をお伝えしただけです。」

「もう行ってよい。」 小狼は番兵に言うと、ものぐさに女王が待っている 聴聞室へ歩いていった。


一週間が経過した。

今が夜だか昼だかわからないが、頭に感じていた鈍い痛みは何日も前に癒えた ことがさくらには嬉しく感じていた。 しかし、喉が渇いて水がほしくてたまらず、 四六時中、お腹が鳴るのが聞こえていた。 どうして今日は番兵が 水を持って来てくれないんだろう? ドアがきしむ音を出して開いて 閉じたかと思うと、番兵が水を持って立っていたのでさくらは安心した。 番兵の 手には部屋を照らすろうそくが握られていて、番兵の体型がさくらには見えた。

「食事係と話があって遅れました。 今日は食事を持ってきました。」

さくらは起き上がって座った。 番兵が手を後ろではなく、前で縛ってくれていた ので以前よりは楽になった。 そのためには、おかしなまねはしないと番兵に約束 していたわけだが。 「ありがとう。 間に合いました。」

「さめないうちに食べてください。」 番兵は微笑んで食事を差し出した。 「どうして苺鈴姫があなたを拘束したがるのか不思議です。 あなたは何も 悪いことなどしてないのに。」

「私は姫の怒りを買うような悪いことをしました。 でも、それは避けようの ないことでした。」 さくらは悲しそうに答えた。

「それはどういうことですか?」 好奇心から番兵が尋ねた。

食事と水を置いて、両手で膝を抱いてさくらは涙を浮かべながら答えた。 「あたしは、小狼王子に恋をしてしまいました。」

つづく...



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