DESTINY

第 5 章

作者: SAKURA AKA MICHELLE
翻訳: Yuki Neco

小狼は木の幹にもたれかかり、胸の位置で腕を組んで剣を使って練習する さくらを見て、時折、さくらに指導をしていた。 小狼の剣は普通の女性が もてないほど重く、苺鈴でさえ、小狼の剣を使うくらいなら死んでしまう と言うほどなのに、それを使って練習するさくらをみると、その強さに 驚いてしまった。 苺鈴のことを強い女性だと思っていただけに、 その剣を羽の重さのように扱うさくらを見るのは驚きに値する。

「さくら、そろそろ休まないか?」 小狼は突然 尋ねた。 「もう3時間も練習してるんだから...」

さくらは動きを止めて小狼の方に走り、捕まえてくれると思って小狼の 腕に突進してきた。 小狼は捕まえてくれたが、その行動に驚いているよう だった。 一体どうしたのか小狼が聞こうとすると、さくらは抱きついて、 彼女の心に隠れた愛らしさを見せつけて微笑みかけた。 彼はその強さに 驚いき、彼女の瞳に移る自分が何も言えずに立っていることに気づいた。

「明日も練習していいかなぁ?」 さくらはしきりに訊く。 「ねぇ、ねぇ。」

小狼は抱き返して、さくらの腰に手を置いた。 彼はさくらににやりと笑い、「もちろん、俺のさくらのためなら。」 と答えた。

さくらは反射的にくすくす笑い、小狼の腕をいたずらっぽく払いのけ、 「あたしは誰のものでもないの。 放してちょうだい。」 と言った。

「だめだ。」 すぐに小狼はあまり考えることなくすぐに答え、思っていることを 言おうと思ってさくらをさらに強く抱きしめて、さくらの頬が真っ赤に燃え上がる のを楽しんだ。 「さくら、俺は今、ごほうびがほしいんだけど...

顔をさらに赤くして、さくらは小狼から引き離れようとしたが、小狼が その要求を拒んだ。 さくらはさらに抵抗し、「そんな恥ずかしいよ! 誰かに見られたら...」 と言った。

小狼がさくらの顔に自分の顔を寄せると、さくらはすぐに視線をそらせる。 小狼は自分でも枯れたように聞こえる声で答えた。 「誰も来やしないよ、さくら。 この屋敷でもっともプライベートな場所だから、決して誰も来ないよ。 さくら以外は。 さあ、俺を見て。」

言われたとおりにすると、さくらは小狼の褐色の瞳のなかで迷っている 自分を見つけた。 他の事は忘れてしまったが、小狼の体の感覚が 寄りかかって来て、小狼の素敵な香りが... 小狼に名前を呼ばれると、 さくらは少し震えて、それを訊いたことを意味するように頬を彼の胸に 寄せる。 それだけでは満足できず、小狼は両手でさくらの頬を包み込むと、 意図ありげに自分の顔を下げてさくらの目を見つめた。 小狼が何を考えて いるかわかっていた。 さっきも言っていたように、小狼はごほうびを 望んでいるし、さくらにはそれを止められない。 その代わり、さくらは小狼に 寄り添って、瞬きをしながらも目を閉じていく...

その時、朝食の時間を知らせるためのベルが鳴り、二人の大切な沈黙の時間が 妨げられた。

さくらは驚いて目を見開き、小狼から飛びのいて、頬が赤くなっていることを 彼に見られないように背中を向けた。 小狼はそのベルを恨んだ。 ちくしょう! あんなベル、廃止してやる! くぁぁぁ...

「こうゆーことはしないほうがいいと思うの。 あたしには分不相応... というか... あなたは王子様で... あたしはなんでもない人...」 さくらの優しい声が耳の中で こだまする。

「今までずっと一緒だったじゃないか、さくら。」 と小狼は怒ったように 言った。 「俺の目には、お前はお姫様だ。 待て、まだ行かないでくれ。」 立ち去ろうとするさくらに小狼は言った。

「二人で会っていることを家族の人が許してくれないわ。」 さくらは 目に涙をためて泣き出しそうな顔で言った。 「こんなこと続けられない... あたし達は結婚することも出来ない。」 彼女は悲しい笑みをこぼす。 「今までと同じような楽しい日々を過ごしましょ。」

「それはどういう意味だ?」 小狼はさくらの肩を揺すって問いかけた。 「それは本心じゃない。」

さくらは喉に何かが詰まったようになって、力の限り小狼に抱きついた。 「小狼、あたしは出て行きません。 あなたが誰かと結婚するまでここに います。 李女王様は力の血筋が由緒正しくあり続けることを望んでいる... だから... あたしたちは結婚しちゃいけないの。」 悲しげな笑みを浮かべた さくらは説明した。 「その時まで、一緒に楽しく過ごしましょ。」

「いやだ。」 小狼は彼女の喉に鼻をすり寄せ、さくらをいらだたせる。 「あと二年だなんて納得できないよ、さくら。 俺は、結婚することになっている 相手との結婚をしない選択をとることもできる。 お前がいやなら、俺は誰とも 結婚しない。」

「今はやめましょう」 さくらはお願いした。 「忘れてるかもしれないけど、 もう朝食の時間に遅れるわ。」

それを聞くとすぐに小狼は青ざめた。 さくらが俺といたことがばれると 疑惑が起きて... さくらが罰を受けることに。 なんて掟だ。 「俺の 練習着を脱がないと。」 小狼は思い出したように腕時計を見た。 「ついでに急がないと、二人とも殺されるぞ。」

小狼の言葉の選択がおかしくて、さくらは眉をひそめて肩をすくめた。 「それなら、小狼が先に行ったほうがいい。」 そう言うと、さくらは 小狼の頬にキスをして続けた。 「後であたしも行くから。」

「早く来るんだぞ。」 小狼はそう言って、さくらの額にさっとキスをすると さくらが赤面したことをにやにや笑いながら出口に向かっていった。

二人のやり取りを廊下の角から李苺鈴が微笑みながら見ていた。 これは 面白いことになってきたわね... さくらが彼女のほうに歩いてきたことに気づくと、 苺鈴はさっと隠れていた場所から引き上げた。 苺鈴は、小狼がさくらを追って来ない ことに安心した。 それは、苺鈴に不都合ではないことを意味していた。

苺鈴は自分に仕えている2人の番兵をにらんで、行動を起こすよう合図 した。 今ならさくらは一人なので、2人の成人男性に同時に襲われても 何もすることすらできないからだ。 二人の番兵がさくらの背後にそっと忍び寄るのを 苺鈴は満足そうに見ていた。 二人の男は、静かに、しかも、即座に動き、 さくらは無防備のまま捕らえられると、苺鈴は思った。

それほどうまくはいかない。

さくらは誰かにつけられていることを廊下に入った瞬間から気づいていて、 それが誰かもわかっていた。 苺鈴姫... どうしていつも、こんなこと ばかりするの? ため息をつき、2人の男がさくらの頭を殴って気絶させ ようとしているとわかった瞬間、さっと伏せた。 さくらは幸運にも、頭を打たれる ギリギリのタイミングでかわした。 手と膝をついて、さくらは脚を大きな円弧状に 振り回して襲ってきた男を蹴り、彼らをもたつかせている間にすばやく逃げた。 襲ってきた男達のさまを見ると、さくらは声を出して笑った。 二人は重なるように 倒れ、何一つ上手くいかずにもつれ合っていた。

その様子に満足して、すばやく逃げようと思ったが、唯一の逃走経路が 苺鈴に仕えるもう一人の大柄な、見るもぞっとするような先頭で鍛え上げられた 番兵によってふさがれていたのだ。

「あたしに何の用?」 李家のお姫様と対立してきたことに飽き飽きしながら、 さくらは怒った表情で尋ねた。 「あたしが一体何をしたの?」

「私は命令に従うだけ。」 番兵は抑揚のない言葉で答えた。 「我々におとなしくついて来れば、危害は加えないと約束しよう。」

「そんなこと信じると思う?」 さくらは、怒りのまなざしであざけるように 言った。 「どこに連れて行くかもわからないのに!」

それに対する返事はなく、事は一瞬にして起こった。 さくらは床に崩れ、 意識を失った。 「致命傷を負わせてないだろうな?」 戦闘で鍛え上げられた番兵が 心配そうに訊いた。

「そんなの、大丈夫だ。」 残りの二人の番兵が同時に答えた。 「苺鈴姫様に首をはねられちまうぞ!」

小麦の袋でもかつぐように、さくらを肩にかつぎ上げ3人は仕事を遂行するため その場所を離れた。

つづく...



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