作者: SAKURA AKA MICHELLE
翻訳: Yuki Neco
十年の月日が流れ、さくらと小狼は16歳になった。
まだ午前6時というのに、さくらはいつもよりもずっと早く目が覚めた。 あくびをして進退を延ばし、ベッドの端に座って、さくらは考え事をしながら 窓の外を眺めていた。 朝日が青空に昇る前に起きて、朝食の時間まで考え事を している。 それにも慣れてしまった。 あの火事からいろんなことが変わってしまった。 もう、もとのあたしには 戻れない。 悲しく考えながら、彼女の両親や兄が生きていて、 彼女を迎えに来てくれることを望んでいた。 でも... あたし、本当に 帰りたいのかなぁ?
ため息をついて、わさわざ女中の眠りを妨げてまでベルを鳴らして 呼ばないでもよいように、さくらは自分で服を着替えた。 さくらが その城に住む李家に引き取られて10年が経ち、いずれ城を出ないといけない ことになっていても、李女王がしてくれるすべてのことに感謝の念を 抱いていた。 突然、城を出ないといけないという考えがさくらの胸を 激しく打ち、声を出して泣かないように涙をこらえた。 ここを出たくない!
スリッパを履いて、さくらはこそっりと部屋を出て李家の4人の姫たちでさえ 立ち入りを許されていない禁断の庭園へこっそり歩いていった。 その庭園は 李小狼王子の所有で、さくらには特別に時間に関係なく出入りを許してくれて いた。 このことは他に誰も知らないことなので、さくらは王家に仕える女中が 誰一人目を覚ます前に庭園にやって来るのだった。
「小狼?」 さくらは庭園のドアを閉じると静かに名前を呼んだ。 作者注: ドアの向こうは見えません。 ドアは木とか... 透明じゃないものでできています... 「いる?」 さくらは王子を探しながらもう一度 声を出してみた。
後ろにかすかな足音を聞いて、さくらはその人の腕の中に本能的に飛び込 んだ。 それが誰かは知っているから。 その庭園に出入りできる彼女以外の もう一人の人物、李小狼。 「よお、いつもより早いな。」 と、小狼は笑いながら 叫んだ。
さくらは小狼の胸元から顔を見上げ、最高に明るい笑顔を浮かべた。 彼女の 微笑が庭園全体を照らすと小狼は自分が融けていくような感じがし、 さくらの真っ黒瞳の中で迷ってしまう自分に気づいた。 (作者注: さくらは、正体を隠すため真っ黒なコンタクトレンズを つけています。) 「なんだ?」
小狼は少しの間、考えながら沈黙を保ち、恥ずかしそうに笑い、 「俺、何を訊いてたんだっけ?」 と言った。
「もう、小狼。」 さくらはムッとして、「忘れっぽいんだから。 今日はいつもより 早いなって、あたしに言ってたのよ。」
かみ殺したように笑いながら、小狼はさくらの鼻をつまんで、「そなたの 美貌がわが呼吸と思考を奪ったのだ。 われもそなたを当惑させよう。 ほら... お前の顔、ホントにトマトみたいに真っ赤になってる!」
さくらがふくれっ面をすると、小狼は反射的に笑った。 「いつもの練習を 始めないの? 剣をもって踊っているが好きなの!」
「踊る?」 小狼は眉をへの字に上げ、練習のためにさくらから離れながら 言った。 「踊るなんてものじゃない。 気をつけないとケガをしてしまうような 危ないことなんだぞ。」
さくらは小狼の説明に気にも留めずうなずいて、「あたしもやっていい?」 と訊いた。
小狼はその返しに驚いて目を回し、「いま何て言った?」 と訊き返した。
「あたしも強くなりたい。」 とさくらは言った。 「格闘技をあたしに教えてよ、 小狼!」
小狼はしばらく黙って、その間、チラチラと見定めるかのようにさくらの 様子をいかがっていた。 さくらはその沈黙の間緊張していた。 庭園にいる動物も その緊張を感じ、沈黙の中にとどまっているように見えた。 「本気か?」
「う、うん。」 さくらもすこし、考え直そうかと思っていた。
「ホントに本気だな?」 もう一度 小狼は訊いた。
さくらはうなずいて答えた。 「本気だもん!」
「なら、仕方ないな。 お前は一度決めたら、誰がなんと言っても気持ちは 変わらないからな。 お前の頑固さには負けるよ。」 小狼は ため息をついて穏やかに言った。
さくらは眉をひそめて、「それほめてるの? けなしてるの?」 と言う。
「そんなガウンじゃだめだな。」 と、小狼はさくらが考え事をしているのを 妨げるように言った。 「もっと普通のシャツとズボンを着ていないとな。」
「あたし、ガウンしか持ってないの。 お母様が男性のお洋服を着せてくれ ないから。」 と、さくらは重心を片足からもう一方へ交互に移しながら、 地面を見つめて、明らかに落ち込んだような声で喋った。 「あたし、 格闘技の練習できないんだね...」
「さくら。」 小狼は意地悪な笑みを浮かべて、「ある条件をのんでくれたら 俺のを貸してやる。」 と言った。
「その条件ってなに? なに?」 さくらはプレゼントをねだる子供のように しきりに答えを要求する。 「ねえ。」
小狼が微笑みながら唇を指差すと、さくらはその意味がわかり、さっと赤面した。 「服を貸す代わりにごほうびがほしいんだけど、だめかな?」
「練習の後で。」 と言って、さくらは小狼の練習着を受け取ったが、 まだ顔が赤くなったままだった。
さくらが見えないように木々の陰に隠れて小狼から借りた服に着替えている間、 小狼は待っていた。 さくらの驚くことに、小狼のにおいが彼女の体にまとわり ついてくる。 小狼の服。 ああ... あたしが着る前、小狼がこれを着て たんだ。 顔が熱い! 早くおさまって! さくらは自分の服をたたむと, 後ろ頭で腕を組んで芝生の上に寝転がっている小狼のところに走ってきた。 ズボンが大きくて地面についているにもかかわらず、転ばずに走って来れたことに さくらは驚いていた。 サイズの大きなシャツにズボンをまとったさくらを見て 小狼はかみ殺したような笑を浮かべ、それを見たさくらは眉をひそめる。
「ごめん、ごめん。」 と、小狼は誤った。 「俺の服を着てかわいかったから。」
「じゃあ、笑うのをやめて、練習しましょうよ。」 さくらは笑わないように 努めながら言った。 やっぱり、おかしいんだ。 自分の練習着をっもって たらなぁ...
そして、小狼が先生でさくらが生徒の練習が始まった。 格闘技をさくらが 一度もやったことがないと知っているので、小狼は辛抱強く教えた。 彼は、 さくらの動きが正しいことを確認し、時には、彼女が足元を崩さないように 姿勢を正してあげた。 さくらの顔はずっと赤いままだったので、小狼は にやりと笑ったまま表情を戻せない。 さくらは頑張って集中し、小狼の言う ことを聞き、動きを覚えるのが難しいと感じていた。 「あせらないでいい、 さくら。」 小狼はさくらを落ち着かせた。 「また、今日 始めたばかり なんだから。」 「はい、小狼先生。」
つづく...