DESTINY

第 1 章

作者: SAKURA AKA MICHELLE
翻訳: Yuki Neco

小狼の母親、李夜蘭がじろじろと見ているので、さくらは落ち着かなかった。 さくらは依然とめまいを感じながら、苺鈴につかまって立っていた。 小狼はみんなをひととおり紹介したのだが、夜蘭は気に入らないようだった。

「なぜ、卑しい百姓の娘が混じっている?」 と、夜蘭は叱った。

卑しい百姓? そう思いながら、さくらは自分の身なりを見た。 確かに、夜蘭が言ったように、貧しい農民のような姿をしていた。 ついさっきまで走って逃げていたので、ナイトガウンは破れ、 泥で汚れて、髪はぼさぼさになっていた。 さくらはうつむいて、夜蘭と目を合わせないようにした。

「でも、母上...」 と、小狼が言い返そうとしたが、それもさえぎられた。

「息子よ。 あなたはどんなことがあろうと、王子なのですよ。 身分の低いものと関わってはいけないと、あなたも十分承知のはずです。」

小狼はこぶしを握った。 小狼は明らかに、母親から返ってきた答えに怒っていた。 小狼はさらに反論しようとするが、さくらがそれを止めた。 「いいんです。 わたしたちは今日、会わなかった。 そう言うことにしましょう。 李王子、ごきげんよう。」

さくらはつかまっていた苺鈴から手を離し、ふらつきながら歩き去ろうとした。 足もとに広がる床は滑りやすく、足を踏み出すたびにさくらの視界がいっそう ぼやけていく。

「おばさま、私がケガをさせたんです。」 と、苺鈴が正直に話した。 「帰る前に、傷の手当てぐらいはしてもいいでしょ。 そうする責任があると思うの。」

夜蘭は苺鈴を見て、胸の中に、姪に対する誇りで満たされる。 「少なくとも、責任感というものを知っているようですね。」 と言って夜蘭は微笑んだ。 「奥に連れて行って、医者を呼んであげなさい。」

小狼はためらうことなく、さくらの後ろまで走って行き、いやがって出ていこうとする さくらの背中を押してあげた。 「王子様、あたしのために、そんなことまで なさらないでください。 ほんのちょっとかすっただけですし、もう、 自分でも大丈夫です。」

「ケガをさせたのは俺たちだ。」 と、小狼は言葉をはさんだ。 「おまえが本当に治るまで、おまえに尽くす責任がある。」

「でも...」

「何度も言うけど、これが責任だと思うし、そうさせてもらえないと、 俺たちは罪の意識を感じることになる。」

「そんなふうにお考えになるなら...」 と、さくらはため息をついて、 従うことにした。

医者が来るのを待っている間、さくらはベッドの上に座っている。 入ってきた医者を見ると... さくらの顔は蒼白になった。 以前、木之本城に仕えていた医者で、さくらを見るや否や、 膝をつき、敬意を払うように頭を下げた。 夜蘭、小狼、苺鈴は、目の前のその光景に唖然としていた。

「姫様、またお会いできるとは、光栄でございます。」

さくらは笑いを装い、わけがわからないような顔をして、 「きっと人違いですよ。 あたしはお姫様ではありません。 お姫様はエメラルド色の瞳をしていることはご存じですね? あたしの瞳は黒です。

ヒカルという名の医者は、ひたすら首を振るさくらの顔を見上げた。 彼は瞬間的に自体を理解し、立ち上がって言った。 「そうでした... 知ってます。 お姫様とお間違えしたことをお許しください。」

さくらは優しく微笑んで、うなずいた。 「早く手当てしてあげなさい。 わたしたちは早く戻らないといけないの。」

「はい、奥様。 手当をしている間は、部屋から出ていってもらえませんか? 診察の間、後ろから見られるのには慣れていないもので。」

「いいでしょう。」 と、夜蘭は納得して、苺鈴を引っ張って、 小狼と一緒に部屋を出た。

ヒカルはドアを閉め、さくらに話しかけた。 「姫様、これからどうなさるおつもりで? 城が燃えてしまわれたことは...」

さくらは芝居をすることもなく、言った。 「あたしには、大道寺家を除けば 親類はいません。 さらに、大道寺家がどこにいるかも わからないんです。」

ヒカルは目を輝かせて、笑いながら言った。 「知っております。 姫様の命令とあらば、お連れいたしましょう。」

「ヒカル先生。 うれしいです。 大道寺家がどこにいるのか教えてください。」

「彼ら、大道寺家は、香港におります。」 と、ヒカルは首を振りながら答えた。 「香港に行くには、海を渡らねばなりません。」

さくらはハッとして言った。 「そんな遠くに。 大道寺家に行く以外に、 他のいい方法はないですか?」

「ありますが...」 と、ヒカル医師は躊躇しながら言った。 「お城の建て直しができて、反逆者を追い出すまでは、 姫様には李家でお世話になられた方がよいでしょう。 その方が安全です。」

さくらは黙って考えをまとめた。 「それ以外にないのですね...」

ヒカルは、再びさくらの目の前で、床に膝をつき、胸に手を当てて言った。 「姫様の身の安全をお祈り申し上げます。」

「あの... ヒカル先生?」

「はい、姫様。」

さくらは怪我をした額を指さして、恥ずかしそうに笑って見せた。 それを見ると、ヒカルの心が痛む。 「みんなが入ってくる前に、 ここをきれいにしてください。」

「もちろんですとも、姫様。」

「ヒカル先生、あたしを さくら って呼んでください。 だいぶ前に、そう呼んでもいいって言いましたわ。」

「姫様、それはよくありません。」 と、ヒカルは言った。

さくらは息をついて、ヒカルが傷口に薬を塗ると痛みに顔をゆがめる。 自分の両親がちょうど世界中をまわっているのだが、またいつ、 あの火事が起きて両親を襲うことになるか、 とさくらは先のことを考え始めていた。 城を再建して、反乱者を追い出してしまうには、何年もかかるだろう。 さくらはため息をついて、まだ道のりは長い... でも、それが運命なんだ... と、思っていた。


あとがき — 作者記

この章はどうでしたか? 短すぎましたか? さて、夜蘭は、さくらを自分たちの国に連れて帰るのでしょうか? それは 次章 でわかりますよ。

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