はじめに — 作者記

この話は、私 (Sakura aka Michelle) が書いた中で一番短い作品です。 でも、そんなことは気にしないでくださいね。 続きの各章も Wishes Do Come True (筆者の他作品) の章ほどの 長さがあると思わないでください。


免責事項 カードキャプターの著作権は CLAMP が有します... で、この話の諸著作権は Sakura aka Michelle が有します!

DESTINY

序章

作者: SAKURA AKA MICHELLE
翻訳: Yuki Neco

「急いでお逃げください! お姫様!」 騎士が急かせるように、 裏の扉からさくらを城の外に押し出す。 敵が正面入口からなだれ込んできている。 「早く!」

エメラルド色をした六歳の姫は意固地に首を振り、 「他の人たちは? ちゃんと来てるの?」 と訊いた。

騎士は心配げに肩越しに振りると、敵がすぐそこまで来ていることに気づいた。 騎士はひざまづいて、さくらの頭に手をおいて言った。 「姫、いいですか... 外に出たら、すぐに隠れてください。 振り返ってはいけません。 いいですか。」

「どうして?」 と、まだ幼い姫は訊いた。

「振り返ってはいけません。 王家に伝わる宝をお持ちになって、 そのことを誰にも言ってはいけません。 もちろん、姫の正体も。」 そう言うと、騎士はさくらに本と首飾りを手渡した。 「お行きなさい!」

騎士がさくらの背中を軽く押して外に行かせると、さくらはそれに従い、 たどたどしい足どりで走りだした。 騎士は涙を浮かべて、さくらが走っていくのを見ていた。

姫、申し訳ない... こうするしかなかったんです...


さくらは息を切らせて、結構遠くまで走ってきたので、 そろそろ走りやめてもいいのか悩んだ。 騎士に渡された本をしっかりと抱きしめ、こともあろうに、 城の方向を振り返ってしまった。 かつて優雅で美しかったさくらが住んでいた城が、炎に包まれている。

胸が張り裂けるような叫び声をあげ、どうすることもできずに城を眺め、 さくらは泣き崩れた。

覚えておくんですよ。 城壁の保護から外に出たら、 このコンタクトレンズをして本当の目の色を隠すんですよ。 彼女の父、木之本 藤隆 王がそう言っていたことをさくらは思いだした。 王家の血を引くものだけが、褐色、または、エメラルド色の瞳を しているんです...

さくらはナイトガウンのポケットに手を入れて、 よく父親に言い聞かされていたコンタクトレンズを探した。 そのコンタクトレンズが、自分の正体を隠してくれる。 コンタクトレンズを見つけると、一秒も無駄にせず、コンタクトレンズをつけ、 レンズの違和感を感じて目をパチパチさせる。 本をポケットにしまい込み、立ち上がり、さくらは行くあてのないまま、 さまよい歩き始めた。

突然、右の方からなにかが飛んできて、さくらは振り向いたが、 その時は少し遅かった。 頭になにかがぶつかったのを感じ、 ぶつかった痛みで気を失っていく...


「小狼、なにかに当たったみたい!」 と、苺鈴がはしゃいでいた。 「聞こえたでしょ?」

「もう戻った方がよくないか?」 はしゃぐ苺鈴を追いかけながら、うなるような声が聞こえてきた。 「母上が、旅館で俺たちのことを待っていて、もう本当に遅れてるんだぞ。」

二人は鳥を捕まえようとしていた。 実は、苺鈴が捕まえに行きたいと言って、小狼の母、李 夜蘭が それを許してくれたが、小狼について行くように指示したのだ。 一族のしきたりでしつけられた小狼は、年長者の言いつけを破ることはできず、 その場所まで苺鈴につきあわされ、苺鈴の子供っぽさに悩まされていた。

「戻る前に、あの鳥を捕まえてきていいでしょ?」 と、苺鈴はお願いした。

小狼は、いらつきながら、そして、退屈した様子でため息をつき、 「好きにしろ。」 と言った。

苺鈴は自分の捕まえた 「鳥」 を見て叫び声を上げるなんて思いもしなかったが、 自分のやってしまったことに大きく恐れおののいた。

自分と同じくらいの年の女の子が、五・六十センチ先に倒れて、 右の額から血を流していたのだ。 苺鈴の悲鳴を聞きつけて、小狼が 苺鈴の所に走ってきた。

苺鈴を見ると、「今度はなんだ?」 と、小狼は訊いた。

「私が投げた石で、女の子が死んじゃうなんて思わなかった。 あの木にとまっている鳥を狙ってたのに!」

小狼は、倒れている少女の脈を調べ、安心したように息をついた。 脈は安定してうちつづけていた。 「まだ生きてる。 おまえは殺人をしてない。」

小狼は、その少女を静かに揺すって、うなり声を漏らすのが聞こえた。 彼女の傷口が開いたのかと思って、小狼の動きが止まる。 黒い瞳が燃えるような赤い瞳を見つめ、黒い方の瞳は驚きと衝撃で 大きく見開かれた。 少女はその瞬間にのけぞり、その突然の動きでめまいを感じて、 目を閉じる。 「あなたは... 誰?」

「まだ動くな。まだ血が出てる。」 と、小狼は少女を制止する。

その少女は苺鈴が顔面蒼白になっているのを見て、気の毒に思い、 なごませようとして、「あたしの顔になにかついてますか?」 と言った。

小狼はただ、少女が起き上がらないように抑えて、 「まだだめだ。 俺は李小狼。 おまえは?」 と訊いた。

「さくら。」

「お姫様?」 苺鈴は、興味津々に訊く。

「あの... いえ、お姫様じゃないです。 あたしはただの... 孤児です。」 と、さくらは嘘をついた。

「ごめんなさい。」 と言って、苺鈴は謝った。

さくらは手を振って、微笑みを浮かべ、「大丈夫ですよ。」 と言った。

小狼はいきなり立ち上がって、しゃべり出した。 「さくらを旅館に連れて帰って傷の手当てをした方がいい。 だろ?」

「うん。」 と、苺鈴は言って、新しくできた友達に微笑みかけた。


あとがき — 作者記

これで序章は終わりです。 さて、旅館ではなにか起きるのでしょうか...

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