作者: deko
カードキャプターの発生させた魔法陣が、夜の環濠で輝いている。 その中で、 「ビッグ」 のカードが召還される。
ビッグ: 「あらまあ! 三人もいらっしゃたのねえ。 どちらにしようかしら... 決まり!」
環濠をまたいで、そびえ立つ巨人の正体は... ホープだった。 お人形の 肩にそれぞれさくらと小狼が、目を回しつつも、しがみついていた。
さくら: 「ほえええええええええっ!! ほ、ほ、ホープちゃんが巨人!」
小狼: 「やれやれ、さくらじゃなかったか。 助かった。」
ホープ: 「ウエーーーーーーン! なんで、なんで、あたしがなるのーー!」
ホープはしゃがみ込む途中で環濠と塀を踏み潰し、前に転んだ。 そして、 顔を上げると、噴水のような涙が噴き上がった。 あきらかに、 泣きべそをかいていた。 大音量の泣き声は、塀の内と外を問わずに人間達には 迷惑きわまりない。
さくら: 「お、お願い。 泣かないで。 ね、いい子だから、ね、ね。」
しかし、ホープの涙は枯れることもなく、汲めどもつきない泉どころか、 滝のように流れる。 おまけに、さくらの周りにいるさくらカードの何枚かも、 もらい泣きしている。
小狼: 「泣くなよ! うわっ!」
環濠の向こうの狗国軍から、矢玉が打ちかけられてきたのに気づき、 小狼は思わず、身を伏せる。 さらに、投石も襲ってきた。
さくら: 「ホープちゃん! いたっ!」
さくらが石を受けて、倒れ込む。はっとなるホープは、直ぐさま背を 狗国軍に向けて、さくらを護る。 小狼がさくらのところに駆けつけ、 石の当たった膝を、服を引き裂いた包帯で包んだ。
ホープ: 「おねえちゃん! 大丈夫?」
小狼: 「大丈夫か! さくら。」
さくら: 「うん! ありがとう。」
などと和んだ家族を演じている場合でもなく、周囲は矢玉の集中攻撃を 受けていた。 安心したホープは、いつの間にか涙も枯れて...
ホープ: 「おにょれーーー!! よくも、よくも!」
きびすを返したお人形を見た狗国軍は震え上がった。 まさに、 破壊神の降臨である。
ホープ: 「いくよーーっ、おねえちゃん。」
背中の羽が一振りすると、猛烈な風が吹き抜けた。 手が無造作に払うと、 打ちかけられた矢玉はすべて、たたき落とされてしまい、足が一歩一歩 踏み出されると、地響きとともに大きな足跡が大地に刻まれた。
半月を超えた月が、夜の友枝丘陵の発掘現場を照らしている。 その月を横切って、 獣のような影が横切った。
スピネル: 「お久しぶりですね、ケルベロス。」
黒い獣から、強い光が吐き出されると、金色の獣は翼を広げてしのいだ。 そのまま、 旋回して炎を吹きかけようとした時、壱与の配下である埴輪たちが二匹の間に 割って入った。
エリオル: 「もういいだろう。 ご挨拶は。」
いつもの、物静かな彼ではない。 今の彼は、ルビーとユエを従えて 高台に立っていた。 その彼の前に壱与と大勇がいる。
エリオル: 「残念ですが、太古からの声がない限り 「タイム」 は動きません。」
壱与: 「そうですか。 おばあさまが みまかれた以上、一刻も早く
帰還せねばなりません。 なのに...」
大勇の足下には黒い穴が開いている。 彼がのぞき込むと、底に土砂が たまっているのが見える。
大勇: 「いまは、小さな穴にしかすぎないんですね。」
ユエ: 「タイムは、主の声だけを待っている。 待つしかないのか。」
ルビー: 「なら、ここで待ちましょう。 おーい、スッピー! 夜食にするわよ。」
そのまま秋月奈久留になるべく、変身を解く魔法陣をあらわす。 エリオルも 苦笑して、魔法の杖を元に戻した。
木之本桃矢が、発掘現場事務所の窓から外を眺めている。 奥の台所から 観月歌帆がコーヒーの盆を持ってきた。
歌帆: 「残念だけど、声が聞こえない以上は、どうしようもないですって。」
桃矢: 「あいつらの会話が聞こえるのか?」
歌帆: 「世界に魔導師は星の数ほどいるけど、時の魔法を固定できたのは
クロウ・リードのみ。 そして、貴方の妹は彼の唯一の後継者よ。 私たちには、
手が出せないわ。」
桃矢: 「歌帆!!」
歌帆は豊麗な美しさに包まれ、気品と落ち着きが漂っているため、 二十歳をすぎたばかりの若者には、近寄りがたいものがあった。
歌帆: 「桃矢は昔から、一途だったね。 でも、見極めの出来ないほど
夢中でもないんでしょう。」
桃矢: 「どういうことだ。 それって、俺のことを...」
歌帆: 「そして、ユエは、さくらちゃんの守護者よ。
分かっているでしょう。 ユエあってこそ、月城雪兎は存在する。」
桃矢は、机に向かってパソコンを起動する。 その後ろ姿は小刻みな震えに 包まれていた。 歌帆は、背後の気配に気づいた。 事務所のドアの前で、 立ちすくんでいる若い女性の存在を。
耶国の環濠の外、巨人ホープの進撃が続いている。 一歩一歩の地響きに、 狗国軍の将兵は恐れおののく。
狗国兵: 「おおお。 怖いーーっ。 お助けーーーっ!」
ホープの前に一団が立ちふさがるが、眼前の巨大怪獣に、足がすくむ。 そこへ、 大きな足が覆い被さり、全員を気絶させる。 足スレスレで気絶した軍団兵を、 ホープは優しくどけて、側で腰が抜けた兵士には見向きもしない。
さくら: 「いいわよ、ホープ。 ミスト!」
ホープの肩の上で、さくらは次々にカードを召還する。 ミストによる霧の 流れが狗国兵たちに襲いかかった。 腐食力の強い霧によって、彼らの甲冑が 消えていき、兵士たちのたくましい肉体があらわになった。
ホープ: 「あちゃ〜。 おねえちゃんったら...」
さくら: 「ほえええ! ち、ちが... あたし、別にそんなつもりじゃ...」
小狼: 「雷帝招来!!」
負けじと小狼も弱い雷を周囲に照射する。 右往左往する軍団兵は、 片っ端から、シビレ踊りを踊らされている。
さくら: 「レイン! ウォーティ! 彼らの篝火 (かがり火) を消し去れ!」
片っ端から灯火の無くなった陣営地では、味方同士が鉢合わせを してばかり。 その中から一人目立つ格好の武将が現れる。
狗何: 「恐れるな! 相手はたかが小娘とガキ一人!」
隊長: 「お、恐れながら、相手には物の怪がついております。」
狗何: 「魔霊退散! わが乾坤一擲の一矢を食らえ!」
狗何が放った矢は正確にさくらを狙っていたが、瞬時にホープが遮ろうとしたのが 災いして、バランスを崩したさくらの袴を貫き破ってしまった。
軍団兵: 「か、可愛い足。 すてきー! ええど、ええど、狗何様、もう一本。」
古今東西、不埒なことをやった男には悲惨な運命が待っている。 それは、 偶然見てしまったとはいえ、見とれていた小狼も同じだった。
さくら: 「しゃ、小狼君たら! ウォーティ! フリーズ!」
水が溢れんばかりに、一帯に降り注ぐと全員がずぶ濡れになり、続いて襲来した 冷気によって、氷漬けにされるのであった。
ホープ: 「こわーーい。 はっ! おねえちゃん! やりすぎよ。」
さくら: 「えっ! ほええええ! ごめんなさい! ファイアリ!
彼らの暖となり、温もりを守りぬけ!」
火の妖精によって最初に解放された小狼はゲッソリと膝をついた。 すると、 柔らかな腕に抱きしめられた。
さくら: 「もう、あんな目をしちゃイヤよ。 小狼くん。」
小狼: 「う、うん。」
目の前にいるのは初々しい最愛の女性に違いはなかったのだが、小狼は、 果たして日本に帰化してよかったかどうか悩んでしまった。
ホープ: 「おねえちゃん! まだ終わっていないわよ。」
たしかに、陣営地の半分は蹂躙されていた。 だが、残りの半分は、 徹底抗戦を挑もうとしているのが彼らにも分かった。
耶国の神殿の広い中庭も、怪我人と手当をしている人々で立錐の余地もない。
ミラー: 「はい、軽傷の人はすぐ、おうちに帰って休んでください。」
さくらになりすましたミラーは、捻りハチマキで大忙し。 侍女たちに混じって お湯や新しい布を運んだり、負傷者の身体を洗ったりと息つく暇もなかった。
戦士隊長: 「壱与様。怪我人はほぼ収容しました。ですが...」
ミラー: 「捕まった人たちのことですね。 さっきから聞こえる
鬨の声も不気味です。」
戦士隊長: 「いかがでしょう? 手勢を率いて...」
ミラー: 「許しません! これ以上、怪我人が増えることを、
邪国の壱与は望みません。」
隊長は任務に忠実な武人らしく深々と礼をする。
21世紀の友枝丘陵では、出身も出自もバラバラな一団が夜食をとっていた。
奈久留: 「はーい! スッピー、大好物のたこ焼きよ。」
スピネル: 「ああ、あこがれのたこ焼き。 日本に帰ってきて...」
瞬時にして、山盛りのたこ焼きが一個だけになってしまった。 傍らのケロが 3個丸飲みにしたのだから無理はない。
ケロ: 「早い者勝ちやでーーっ」
歌帆: 「そうね、おいしい物が食べたければ、まずスピードよ。」
そういいながら、彼女は客人にもたこ焼きを配っていた。 哀しみのスピネルの 目から大粒の涙。
スピネル: 「鬼! 悪魔! あなた達には人を、じゃなかった妖精を 思いやる気は無いのですか?!」
ケロがスピネルの肩を叩き、隠していた2個を押しやる。
スピネル: 「わ、私に? ありがとうございます。 し、しかしですよ、 今になってくれるのなら、なぜ最初から...」
彼の抗議は、そこで終わった。 「穴」 の異変にユエが気づき、 彼らの背後の高台で眠る 「タイム」 の覚醒をエリオルが感じたのだ。
エリオル: そろそろ、遡及の時ですね、さくらさん。がんばってください。
狗国軍陣営地で狗国軍は、背後の山を背にして背水の陣を 敷いている。 さくらと小狼はホープの肩で心配げに見守っていた。
さくら: 「どうしたらいいの、小狼くん?」
小狼: 「項羽の戦術じゃないけど、あの形は追いつめられた感情が
働いて危険なんだ。」
さくら: 「弱ったわ。 明け方が近いし、ハックション!
みんなを早く、戦いから解放しないと。」
小狼は心配げな恋人の横顔を見て、心ときめいていた。 強い責任感と、 弱い人への限りない思いやりと愛情。 彼女がカード達の主になったのも 当然なのだ。 そして、変わらぬ愛らしさ。 自然に彼の顔は紅潮してしまい、 次の瞬間、実体化した存在に気づくのが遅れた。
ホープ: 「だれ!」
炎のカード: 「失礼いたします、さくらカードの主様。」
そこには、遷、炎、宙、震の外祖カードが浮かんでいた。
さくら: 「どうしたの? あなた達の主は、李外祖はいったいどうしたの?」
彼らは、黙ったまま浮遊している。 たまりかねて、命のカードが話しかけた。
命: 「外祖はどうしたんだ! まさか、例の鬱発作に襲われたのか!?」
小狼: 「どういうことなんだ!」
命: 「主様、小狼さま、私はもとは人間で、李外祖の主治医でした。
李外祖は病人です。」
さくら: 「何ですって! でも、お体は元気の様子だったわ。」
炎: 「心の病だよ。 彼の中には二人の人格が、交互に入れ替わっているんだ。」
命: 「一人は、誇り高き大魔導師としての彼。 もう一人はこの世界に
来てから現れましたが、何事にも消極的な怠惰に身を任せる、
酒におぼれきった老人のような彼です。」
さくら: 「そういえば、別人と思う時もあったわ。」
震: 「今の主は、余りにも凛々しすぎるんだ。 俺、知っている。
後一時もしないうちに酒飲みに戻って、狗奈に殺されるんだ。」
宙: 「主は、外祖は 『玉』 を取り返しに行きました。 玉 は彼の魔術の
源泉にして、未来へ続く、時の回廊の道しるべなんです。」
小狼: 「急ごう! 急がないと 玉 を、じゃなかった。 外祖を必ず捕まえなきゃ、
ひどい目に遭わされるぞ。」
さくら: 「わかったわ! でも、そうなると... そうだ! 名案があるわ。」
狗国の陣営地に負傷兵が次々と運ばれてくる。 その中で、重臣たちを前にした 狗奈王は、一人だけで食事をしている。
狗奈: 「ふん! ああ、腹が立つと腹が空く。 何をぼけっと見ている。 一人前の働きも出来ないくせに食事だと...」
そこへ李外祖が大盛りのにぎり飯を持って入ってくる。
狗奈: 「おお! 外祖。お代わりはまだか。 うんうん待ちこがれたぞ。 な、何をする!」
驚いたことに、外祖は負傷者を廻って、握り飯を与えている。 ある者は、 感謝の言葉すら出ないほど弱り、ある者は飯を頬ばることしかできない。
外祖: 「わが王よ。 失礼ながら、あなたには臣下の苦しみが見えませんか?
貴方が敵に回したのは...」
狗奈: 「うるさい! だからこそ、朕はお前を保護したのだ。 さあ、お前の魔術で
邪国の息の根を止めるのだ」
外祖は掌を広げた。 あからさまな反抗の意思表示であり、次に掌を返すと、 短刀が握られていた。 陣営のはずれから警備兵の叫びが聞こえた。
兵隊: 「敵襲! 敵襲! 化け物が二匹、北と南から近づいてくるぞ!」
外祖: ふん! 双のカードか。 なかなかのアイデアマンだな。
その瞬間、狗奈王は脱兎のごとく (豚のトン走かも) 立ち上がって逃げる。 外祖は慌てて襲いかかるが、重臣たちと元気な警備兵に阻まれる。
さくら: 「サンダー! ああ、ごめんなさい。」
空中を浮遊していたさくらカードから、雷獣の吠える声がした途端に、 その場にいた全員が電撃を喰らってしまった。 さくらが着地して、 外祖のところへ駆け寄ったがそこにいたのは...
外祖: 「よう、お嬢ちゃん。 おじさんをなぐさめ... ういーっ、ひっく!」
いくら不運な境遇が招いたこととはいえ、ふざけた言動にはそれなりの 罰が待ち構えているのであった。
陣営地裏の山の頂上に小狼とさくらカードたちが、降り立った。 遙か下の 戦況がはっきりと見える。 二体となったホープが、連係プレーで ローラー作戦のように、狗国軍を駆逐していた。
小狼: 「やっぱり。 あの足跡って...」
そこへ、外祖を抱えたさくらがたどり着いた。 彼女の 側には 「パワー」 と 「フライ」 のカードが輝いていた。
さくら: 「しかたが無いでしょう。 おとうさん、真相を知ったら
なんて言うかしら... でも!」
小狼: 「でも、なんだい (外祖を抱き受けながら)」
さくら: 「なんとかなるよ! 絶対大丈夫よ!」
だが、さくらの楽観もそこまでだった。 それまで沈黙していた 「視」 の カードが輝き、二人は映し出された狗国軍の陣営地を見て、喘いだ。 多くの 負傷兵が、夜明け前の寒さに震えているのだ。 彼らの多くは、ろくな服も 纏ってなく、ましてや、寝具すらも支給されていなかったのだ。
さくら: 「どうしよう、小狼くん。 急がなくちゃ。 早く助けなくちゃ、
みんな、凍えてしまうわ。」
小狼: 「落ち着け。 このままじゃ、あの王様は、怪我をした人たちを
人質にするかもしれない。」
さくら: 「じゃあ、どうしたらいいの?」
小狼: 「王様を捕まえるしかないな。 いい方法がある、やってみないか?」
さくら: 「はい!」
早朝になって、神殿の中庭にいる多くの人が家路についたが、 ミラーを心配する戦士隊長と侍女の何人かが残っている。 ミラーは、 じっと立ち続けていた。 その彼女の顔を、朝焼けの燭光が撫でている。
侍女: 「壱与様。 お休みください、このままでは大勇みたいに倒れますよ。」
侍女: 「そうなれば、こんどは大勇が看病なさいますね... ああ、仲睦まじい、
お二人が羨ましい。」
人間ではないミラーだが、ここの人々の優しい心遣いがうれしかった。
ミラー: 「はい、では少しだけ休みます。」
彼女は神殿の奥に入りかけて、振り返った。 神殿の周囲の木々から一斉に、 鳥たちの叫び声が聞こえたのだ。
侍女: 「い、壱与様、あれは! 月とお日様が!」
それはこの世の終わるときまで有り得ない事象だった。 月と太陽が同時に 地平を離れていた。 そして、接近することから、切迫している事件は!
ミラー: 日食。 そして、あたしたちにはもう、時間がないんだわ!!
さくら: 「じゃあ、お願いね。 アーシー、ウエイブ! 大地を揺り動かし、 流れとなれ。」
「震」のカードが輝き、一帯に中規模の地震が発生し、さくらカードの 妖精が複合しながら強い力となって、陣営地近くの大地に 飛び込んでいった。 すると、地面に次々と亀裂が入り込み、 崩落が始まる。 それは、瞬く間に地滑りとなり、狗国軍の将兵を巻き込んで 一気に流れ下った。
狗奈: 「わーっ!! 逃げろ! 逃げろ!」
兵隊: 「王よ、逃げ場はありません。」
そう言いながらも、兵隊たちは一斉に背後の崖に向かって、 必死によじ登っていた。 遅れまいと狗奈王も必死になって 駆け上っていく。 勢い余って兵隊たちの背中を足蹴にして、捕まりながら グングン上り詰めて行く。 その貧相さに、山頂で待ち受ける小狼は呆れかえった。
小狼: 「ひどい王様だなあ、あれじゃ家来が可哀想だよ。」
宙のカード: 「まったくです、我が外祖もあそこまでひどくない。」
狗奈王がやっと頂上にたどり着いた時、小狼はきわめて冷酷に王を 扱かった。 すなわち、豪華な襟首を締め上げて、「玉」を取り上げると、 そのまま、登ってきた斜面に逆さまに投げ返したのだ。
狗奈: 「わーっ、落ちる。誰か止めて〜」
しばらくして、王は斜面を下りきって底についた。 山津波に襲われると思いきや、 もうその時には地震の鳴動も、地滑りも収まっていた。
さくら: 「さあ、みんな。 これから大仕事よ。 ライト! ライフ! すべての 傷ついた人に癒しの術を!」
魔法陣が最高に輝き、命のカードが癒しの力を仲間のカードたちに 放射すると、全てのカードが癒しの光に染まったのだ。 そして、一斉に 助けを求める人々の元へと飛び出していった。
完全に破壊された陣営地には、体力の消耗と凍える寒さに 苦しむ人々がいた。 そこへ飛行してきたカードたちに癒しの光を届けられ、 彼らは一様に驚愕した。
農民: 「見てくれ、俺の傷が消えちまったぞ!」
狗国の兵士: 「ありがとうな。 俺たちにまで助けてくれるなんて。」
喜びの人々の喝采が拡がる中、邪国の門が開き、ミラーを先頭にした人々が やってきた。 邪国の人々は手に手に、食べ物や水の瓶を持ち、 あるいは薬草の入った袋を担いでやってきたのだった。
ミラー: 「じゃあ、隊長さん。 わたし、大勇が気がかりですから。」
戦士隊長: 「壱予様、残兵にお気を付けてください。 狗奈王が
いるかもしれません! お待ちください。」
そのまま、ミラーは素早く木陰に逃げ込むと変身を解除して主の所へ急いだ。
陣営地の裏山では、さくらカードたちが乱舞していた。 その中心では、 今まで以上の輝きを持つ魔法陣が光り輝いていた。 やがて、その輝きが おさまると、さくらは小狼の腕の中に倒れ込んだ。
さくら: 「ありがとう、小狼君。ホープちゃん、みんな。 外祖カードさんたちも。」
さくらの目はボンヤリしている。 小狼には、さしもの彼女の膨大な魔力も、 底が見えたかに感じられた。 外祖は驚いたことに、そんな二人の姿を、 微笑みながら見守っていた。 そこへ、最後のカードが集合した。
ミラー: 「さくらさん。 ただいま戻りました。 あの...」
ホープ: 「どうしたの? ミラーおねえちゃん。」
ミラーはうつむきながら、いまにも最初の接触が始まりそうな太陽と 月を指さした。
外祖: 「おお! とうとうその時がきたか! 待ってた甲斐があったよ。」
今の李外祖は理知的な風貌を備えていた。 さくらは戸惑いながら尋ねた。
さくら: 「とうとうって、どういうことですか? 外祖さん。」
外祖: 「この世界は遥かな昔から強い二つの力の平衝の上に
成り立っていた。 だが、数万年に一回のバランスが崩れる時が
到来するんだ。 ここに、この世界の一カ所にゆがみを造り出す。」
小狼: 「ゆがみ。 それって、空間がねじれることですか。」
知のカード: 「月と太陽が日食を起こすことは珍しくありません。
問題は同時に、地平線から出たことです。」
外祖: 「この日食の時に、私の待っていた時空の隙間が出来る。
そこから、私たちは時の回廊を遡り、自分たちの時代に帰還するんだ。
だが、わたし一人の力では時空の回廊を遡ることは出来ない。
魔力が足りないのだ。 そのために、わたしは卑劣な手段を持って、
君たちを此処へ落とし込んだんだ。 済まない。」
さくら&ホープ: 「じゃあ、あたしたち未来へ、友枝町に帰るんですね。」
さくらは嬉しかった。彼女はお人形に戻っていたホープを抱き上げ、 頬ずりして感謝のキスを捧げた。 だが、小狼にとっては楽観的な 見方は無縁だった。
小狼: 「でも、時空の隙間っていうけど、確実に帰れる保証はあるんですか?」
外祖: 「この玉、これは、わたしのいた20世紀への道しるべだ。 そして、
君の玉も21世紀から、お母さんが届けてくれたものだね。 後は、自分たちの
魔力を信じて乗り出すまでさ、時空の隙間へね。」
小狼には納得できなかった。 そんな彼の不安を表したかのように、 太陽と月の浸食が始まった。
さくら: 「小狼君。 絶対大丈夫よ、わたしたちの全ての力を出し切れば、 必ずみんなの所へ帰れるわ。」
冷たい風が一同の足下にまで、吹きつけてきた。
外祖: ここ一番の大嵐か。 まあいい。 その時は、俺だけでも助かれば李家はご安泰。 坊やにお嬢ちゃん、悪く思うなよ。
21世紀の友枝町の上空には、厚い雲がたちこめ、地上から月の姿を 地上から見ることはできなかった。 異なる時間に通じる穴が、 輝き初め、細い 「力」 が天空に輝き始めた。 それを見つけた ケルベロスは歓声を上げた。
ケルベロス: 「みんなーっ、時空の穴が輝いたで。 もうすぐ、
さくらとカード達が帰ってくるでー。」
スピネル: 「あなたは、なぜ、小狼さんとお人形を無視なさるんですか。」
奈来留: 「その性格治さないと、将来は追い出されちゃうわよ。」
ユエ: 「見事な予測だ。」
そして、このカップルも待っていた。
壱予: 「大勇、もうすぐ逢えるのね。」
大勇: 「ああ、小狼君。 元気だったかなあ。 早く逢いたいよ。」
だが、魔法の杖を持った少年には、別の感情が宿っていた。 それは 惜別だった。
エリオル: 思ってたとうりだ。 もう、さくらさんの顔を 見ることもあるまい...
言葉には出なかった。 だが、傍らにいる大道寺知世と歌帆は、 彼の表情を間違いなく読み取り、絶望に襲われた。