作者: deko
ケルベロス: 「誰だ!」
夜の友枝丘陵、遺跡発掘現場で、ケルベロスが気配を感じて振り向くと、 太古の少女、邪国の壱予がいた。 彼女は瞳に怒りをたたえ、彼女の周囲には 埴輪たちが舞っていた。
壱予: 「余計なことをするな!」
途端に、彼女から 「力」 が迸る。 ユエとケルベロスは同時に、 シールドを展開する。
ケルベロス: 「な、なんちゅう力や!」
二人の展開するバリアはみるみるうちに圧迫、縮小を強いられる。
ケルベロス: 「こなくそ!」
ケルベロスは飛び上がって、炎を吐き出すが、壱予に向かって突き進む炎は途中で 消えてしまう。 壱予の反撃はすぐさま発せられ、ケルベロスの身体を突き抜ける。 地面に墜落するケルベロスを見て、ユエとホープが駆け寄る。
ユエ: 「いかん!」
とっさに彼はホープを、突き飛ばす。 立ち上がったケルベロスは、 目の光が失われ、今度はユエに向かって炎を吹きかけてくる。
ユエ: 「操られたか! ケルベロス」
ホープ: 「そ、そんな!」
ケルベロスの後ろに壱予が控えて、その周囲には埴輪たちの攻撃陣営が 形成されている。
ユエ: 行け! ホープ。タイムから杖を預かり、主の所へ行くのだ
ホープ: でも、ケロをこのままに出来ない。
ユエはそのまま突き進んでゆく。 掌から光があふれ、埴輪たちに向かって 結晶弾が降り注ぐ。 たちまち、何体かの埴輪が破壊される。 同時に、 ケルベロスは壱予を護ろうとして被弾する。
壱予: 「やってくれるわね」
壱予はすーっと降りて、ユエの前に立ちふさがる。 ホープは、ユエの行動を 止められないと感じて、タイムやシールドのいる高台に向かって走る。 ホープは満足に走れないものの、高台のそばにたどり着いた。 そこへ、 埴輪たちが攻撃してくる。
ホープ: 「いやーーー」
その時、ユエの身体が庇った。
ユエ: 「早くしろ!!」
彼は壱予と埴輪たちからの、強い 「力」 の攻撃を一身で食い止めていた。
ホープ: 「シールド! タイムに逢わせて。」
盾が実体化して、ホープを迎え入れる。
閉鎖された空間の中には、タイムが待っていた。 そばには 獣のような 「替」 もいる。
ホープ: 「タイム、あたいに...」 タイム: 「わかった。」
さくらカード封印の鍵が現れ、ホープの中に宿る。
タイム: 「時空の穴を再現する。気を付けてな」
シールドが再度開くと、ホープの前には、傷ついた雪兎の姿がある。 同じく、ケルベロスがいつもの姿に帰って、倒れていた。
ホープ: 「ユエ」
彼女の目の前でユエと雪兎の姿が、交互に入れ替わっていた。 明らかにユエは、変身を持続しようとして、失敗している。
雪兎: 「ぬいぐるみちゃん。ごめんね。僕の力が、ユエの力が及ばなかったよ。」
ついに雪兎の姿で、彼は倒れる。 次の瞬間、透明な剣がホープを襲った。
壱予: 「あきらめなさい。 貴方とその鍵があれば、あたしはその中のモノを 配下に出来る。あの子がここへ帰ることはないのよ。」
ホープ: 「いやよ!」
壱予は、透明な剣を構え直す。 いつでも、この小さな人形を刺し貫く気でいるのだ。 二人の傍でタイムの力が働き、虚空の穴が現出する。
ホープ: 「おねえちゃん」
ホープの傍らに埴輪たちが降下して、彼女の自由を奪おうとする。 同時に、壱予が剣を振りかざす。 二度、三度とすれすれでホープは、 剣から逃れる。 少しでも穴に近づこうとしている。
壱予: 「なぜ、なぜ反撃しないの。 貴方も強い力を持っているでしょう」
ホープ: 「約束。 おねえちゃんとの約束だから」
壱予: 「約束? あの子が、物の怪のようなあんたと約束したの」
ホープ: 「おねえちゃんは、ずっと封印されていたあたいを、みんなと
一緒にいられるように受け入れてくれたわ。 その時に約束したの。 おねえちゃんが
望むときだけこの 「力」 を使うって。 だから、人の困るような
こともしない。 イタズラもしない。 そして...」
壱予は、その小さな命を奪うことが出来なかった。 彼女は本質的に 優しい性格なのだ。 次の瞬間、ホープが時空の穴に走り込むのを、 呆然と見送ってしまった。
壱予: 「お、おのれーーー」
彼女は穴に走り込み、そこから剣を投げようと身構えた。 しかし、出来なかった。 上空には、雲間に月の姿。いつの間にか、 さくらカードの守護者たちもいなくなっている。 その時、壱予は人の気配に気付いた。
真嬉: 「おじょうさん、どうしました?」
ステッキをついた、天宮老人がいた。 少し離れた草原から、ケロを抱えた雪兎が、 二人を呆然と見ていた。
ボロボロになったままのホープが、時の回廊を過去に向かって落ち込んでいく。
ホープ: 「おねえちゃんのもとに...」
邪国の集落はずれにある一軒家では、弥生時代の竪穴式住居の土間に、 草を編んだ藁が敷かれている。傍らの囲炉裏から美味しそうなにおいがする。
小狼: 「ありがとう。もういいよ」
さくらが、かゆの椀を下げる。 いくらも、中身は減っていない。
さくら: 「じゃあ、包帯を替えるわ。痛いと思うけど我慢してね」
巻き取られた、古い包帯はほとんどが血に染まっていた。 彼女の 目の前で、小狼は衰弱しきっていた。
麗呼: 「こんばんは。 入って良いかしら?」
侍女を従えて、麗呼女王が入ってくる。 侍女たちは暖かそうな寝具を持っており、 狭い家に戸惑っている様子。 この世の不幸を全て飲み込んだような、 さくらの表情。 昨日、炊事場でさくらを非難した娘は、床の小狼を見て、 目をそらす。
麗呼: 「私にも診させてくれる」
小狼の傷は、肩から脇腹についての深い裂傷。 だが、不思議にもその傷は 縫合されたようにズレて、接合されている。 そのうまく接合されていない ところから、少量の血が流れ続けている。 それを盗み見た侍女たちは、 遠慮も無く出てゆく。
麗呼: 「貴方の世界でなら、治るかもしれないわね。でも、ここでは無理よ」
さくら: 「はい。」
麗呼は立ち上がろうとする、と、以前から気になっていたことが想い出され、 慌ててさくらの方を見る。
麗呼: 「この世界に、あなた達と同じような力を持った者がいるでしょう。 私も
何度か、彼の気配を感じているわ」
小狼: 「り... げ...そ...」
さくら: 「小狼君、動いちゃダメ!」
小狼: 「この傷は、あいつが治しかけたんだ。 そっちの床の上に、
あいつの気配が残って...」
さくら: 「あの人、小狼君のけがを知りながら逃げているのね!! 同じ一族で
ありながら許せない!」
さくらはまさしく、怒りに染まっている。 これ以上はないと恐ろしい顔。 周囲のカードたちが、あわてて隅っこに逃げてゆく。
小狼: 「外祖の魔力は... クロウほど強くはない。 仕方のない」
さくら: 「いいえ! あるわ。 あたし、李外祖を探し出して、ここへ連れてくる!」
小狼: 「さくら...」
さくら: 「嫌がったら、とっちめてやる!」
小狼は、痛みに喘ぐ前に微笑む。
小狼: 「どうやって探すんだい。 シャドウは、明確な何かがないと... ミラー君! 君、彼の姿 覚えているよね?」
実体化した姿で、お椀を下げていたミラーは、慌てて椀を 落としてしまう。
ミラー: 「あ、あたし。 あのかたキライです!」
いつもの彼女らしくなく、外へ逃げていってしまう。 同じく実体化していた、 ライトとダークが追いかけていく。
小狼: 「ミラーが、その人の姿を映すというのは、一時的にその人の心を
写すことなんだ。さぞ...」
さくら: 「イヤな想いをしたんだ!! 小狼君」
小狼は、猛烈な痙攣に襲われていた。 さくらは、必死に抱きしめ、 収めようとする。
狗国 宮殿の地下室では、ひょろ長い体躯の男、李外祖が、周囲の品物を 行李に押し込んでいる。その周囲を何枚かの魔法カードが取り巻いている。
カード: 「主よ、どうするつもりだ」
外祖: 「なんざんす 「遷」。 わかっているでしょ、逃げるのです」
別のカード、「命」 が仲間のカード 「視」 「宙」 「震」 「炎」 「学」 と ともにいる。 これだけが外祖のカードの全てである。
炎のカード: 「落ちぶれたね。 かつては、クロウリードと競い合ったと
言うけど、本当かどうか?」
視のカード: 「あの、ミラーというカードを巡って、魔法勝負して以来さ」
遷のカード: 「資質は良いんだけど、中途半端。 な、「命」 よ。」
外祖: 「うるさいざんす!! 逆らう気ですか!」
震のカードが輝き、ちょっとした地震が発生する。 外祖が、 荷物の山に押しつぶされて、惨めな姿。 周囲を7枚のカードが周回しながら、 笑い合っている。
大勇の家の囲炉裏端で、小狼は安らかな顔で寝入っている。 一時的に 症状が安定したらしい。 彼の上では 眠 (スリープ) のカードが輝いている。 話し合う さくらとミラー傍を、カードたちが回っている。
さくら: 「そうだったの。さっきのあたし、すごく怒ったわ。ゴメンね」
ミラー: 「あたしも、お友達である貴方のことを考えないですみません」
傍らでは麗呼が二人を見守っている。
麗呼: 優しい子ね。主でありながら、対等の友達として接している。 壱予、 私は愚かだったわ。
そう思うと、「何ですって! 壱予が大勇と。おのれ、臣下でありながら... 追いかけなさい、反抗したなら、殺しなさい。 これは、神の妻である私を 通じた大地母神の神意よ!」 と叫んだ自分を思い返す。
ミラー: 「さあ、行きましょう。さくらさん」
ミラーの実体化が解除され、カードの形で浮遊する。
さくら: 「うん、ありがとう。 ミラー、かの魔導師、李外祖の姿を写せ! レリーーズ」
大きな鏡の姿から、李外祖の姿が実体化する。
さくら: 「シャドウ! かの者の影を探し出せ。 レリーーズ」
召還されて、外祖の姿の周りを回ったシャドウが、一目散に飛び 出してゆく。 明らかに見つけたのである。 さくらの周囲を舞っていた カードたちが、掌に集合する。
さくら: 「おばあさま、行ってきます。小狼君を頼みます」
そのまま、彼女は恋人の傍らにゆき、抱きしめる。 彼の感触を肌で 感じておきたいのだ。
さくら: 「いってきます。あなた」
ホープは時の回廊を落下し続ける。 周囲から様々な時代の、人々の声が 聞こえる。 激しい乱流が、傷ついた身体を揺さぶり、こづき回す。
ホープ: 「おねえちゃん。 おねえちゃーーん」
フライの羽根を突けたさくらが、夜の空に飛び出していく。 今の彼女は 腰に 「剣」 を構え、自分の大事な想いを護る決意に溢れている。
読者の皆様へ: この回は、大きな要素を持っており、いつものような構成には 出来ませんでした。 お詫び致します。 ストーリー構成が若干変動しますが、 終点は見えているつもりです。
-deko