作者: deko
遺跡発掘現場の朝、大勢の人々が詰めかけている。 あちこちでTVのレポーターが、実況中継を行っている。 その中で、 対応に追われる木之本助教授や学生たち。
天宮総業の会長室。 落ち着いた雰囲気の室内で、真嬉おじいさんとさくら、 小狼が朝食を摂っているところである。 事務員のお嬢さんが、 みそ汁のお代わりを持って回る。
事務員: 「もう、よろしいですか。お嬢さん」
さくら: 「はい、とっても美味しいです」
真嬉: 「さくらちゃんは、家でもお味噌汁を作っているんだね」
さくら: 「はい、お兄ちゃんはちょっと味が濃いめで、お父さんは薄味が好きです」
真嬉: 「きみは、日本の食事は好きかね(小狼に)」
あわてて、掻き込むすがたに、さくらのあきれ顔。
小狼: 「は、はい。特に好き嫌いはありません」
窓の下、遙か下の地上では,人々が一日の作業を始めている。
真嬉: 「さて、私も君たちも仕事が待っている。頑張ろうじゃないか」
小狼・さくら: 「はい!ご馳走様でした」
二人がいなくなった後で、事務員がお代わりのお茶を持ってくる。
事務員: 「なんだか、とても嬉しそうですね。」
真嬉: 「夢だったよ。孫たちと暖かいご飯を食べる。
あの子たちに再会できて、夢が叶った」
発掘現場では昨日の熱狂が続いている。 甕棺の出た周囲からは、 たくさんの埴輪が出土している。
さくら: 「李君、何となく気味悪くない」
小狼: 「別に。」
傍で平板に向かっている容子さんと、千春と山崎君。
容子: 「やっぱり、方向が合わせてあるみたいね」
山崎: 「昨日の木之本さんの見つけた、棺とは違ってかなり粗末だね」
千春: 「こらーっ(足を踏んづける)」
容子: 「身分制度が出来ていたのね。強い者と弱い者の」
山崎君は文字どおり、千春の尻に敷かれている。 何とも哀れな構図。 二人の足下では発掘によって、新しく発見された棺が現れてきたところである。
夜の天宮総業の独身寮、炊事室では、さくらが大きな鍋を棚にしまっている。
さくら: 「終わったーーみんなのお腹はいっぱいーー♪」
個室では、小狼が真剣な面持ちで剣を構えている。 少しづつ、 魔力の集中が始まってくる。
小狼: 「だめか!」
そこへ、ノックなしにさくらが入ってくる。 慌てて、小狼は魔力の集中を止める。
さくら: 「お仕事だったの」
小狼: 「い、いや。何か用かい」(慌てて剣を隠す。)
さくら: 「ううん。ちょっと散歩したいなあって...」
彼女がドアへ戻りかけると、小狼はそれを引き留める。 とても赤い顔である。
さくら: 「外、寒いから肩掛け取ってくる」
さくらの部屋では、ケロが、山盛りのコロッケを平らげている。 傍にいるホープは面白くない。
ホープ: 「いいなあ。ケロは食べる楽しみがあって」
そこへさくらが入ってくる。 彼女は慌ただしく、部屋の衣装タンスから 肩掛けを取り出して、出て行く。 ホープはため息をつくと、もの凄い”力”の気配を感じる。 ケロの方は満腹で、 眠ってしまっている。
ホープ: 「おねえちゃん! こわい! 早く逃げて」
窓から外へ向かって、ホープが飛び出してゆく。
発掘現場は発掘が進行して、大きな古墳の姿が見えだしている。 甕棺の出土したところは、保護用の櫓(やぐら)が組んである。 小狼とさくらが歩いてくる。 二人の足下には通路が設けられ、埴輪が並んでいる。
さくら: 「うわーっ。可愛いお家。」
小狼: 「あの世に行ったときに、必要な品物や人を埴輪にして、お供えしたんだよ。」
さくら: 「きっと、この人。幸せな生活を天国でもしたかったのね」
小狼: 「うん。これは、世界中のどこでも同じな...」
さくら: 「あたしも、幸せになりたい。小狼君と...」
さくらは、じっと小狼を見つめ、目を閉じる。明らかに接吻を待つ体勢。 小狼は、蒼くなって擬固する。
小狼: 「ああ、い、いいのか」
さくらの同意の頷きに、ぼうっとなる。 次の瞬間、強大な 『気』 に弾き 飛ばされる二人。 二人の周囲を埴輪たちが取り囲んでいた。
発掘現場...
さくら: 「レリーズ!」
さくらが封印の杖を召還して、構える。 同様に、小狼も剣を構える。 その二人に向かって、埴輪たちの口から 『力』 が吐き出される。 避けきれず、力を受けたさくらは弾き飛ばされる。 小狼は、 剣で防ぐが次々に繰り出される”力”に翻弄される。
小狼: 「さくら! 雷帝招来!」
強力な電撃が埴輪たちに向かって走るが、電撃で仲間を破壊されても、 埴輪たちは平気で向かってくる。
小狼: 「さくら! フリーズだ!」
さくら: 「はい! フリーズよ、かの者たちを封じ込めよ」
召還された 「凍」 の力が埴輪たちを取り巻き、氷付けで封じ込める。
ホープ: 「いやああああああああ」ホープの悲鳴に唖然するさくらと小狼。 そこには、白い顔をした少女がいた。彼女は半透明の姿で、薄い衣装は美しい刺繍があったらしい。そう、霊である。 少女の霊は、ホープをしっかりと掴んでいた。
ホープ: 「おねえちゃん... 助けて!」
さくらは 「樹」 のカードを召還すが、樹の姿は、一瞬だけ実体化したのみで すぐにカードへ戻ってしまう。 再度さくらは、「風」 のカードを召還する。
さくら: 「風よ、戒めの鎖と..」 風の妖精が実体化して、 猛然と霊に向かってゆくが、途中でその姿は崩れ、空しくさくらの元に帰還する。
小狼: 「無駄だ。ホープの力をあいつが利用しているんだ。 あの子を 助けない限り、魔法は使えない」
小狼は懐から風の札を取り出し、口にくわえてから剣を構えて 飛び込もうとする。 その時、天空から強烈な雷が落下する。
小狼: 「うわーーーっ」 もんどりうって、地面に投げ出される。
さくら: 「小狼君!」 駆け寄ろうとする彼女の前に、霊が立ち塞がった。
霊: 「やっと見つけた。ずっと、ずっとお前を待っていたのよ。
強い力の持ち主であるお前をね」
さくら: 「あなたは、だれ。」
霊: 「私の名は、壱予。はるか前にここで生まれ、そして、死んだわ」
壱予: 「何も出来なくて、好きな子と結ばれることもなかった。 だから、
お前が憎いのよ」
実体のない霊なのだが、その頬からは涙のような線が伝っている。
さくら: 「何が望みなの」
壱予: 「替わってほしい。それだけよ」
壱予の後ろに、今日発見されたもう一つの棺が、降りてくる。
壱予: 「あんた達のこれからの時間は、あたし達がもらう。 その替わりに、 昔の 『太古の娘』 にはあんたがなるのよ。その子も一緒にね」
気絶した小狼が、埴輪たちによって、空中に引き立てられる。 さながら、 十字架に貼り付けにされたよう。 さくらは杖を握りしめて、 降伏の気配を見せていない。
壱予: 「無駄なことをしないで。さもないと...」
壱予は手にしたホープを握り締める。 たちまち、ホープの身体である さくら人形に、裂け目が広がる。 その裂け目から、カードの模様が見える。 泣き叫ぶホープ。 カードが反応して、エネルギーが漏れてゆく。
ホープ: 「いやあああああ。おねえちゃん、助けてーーーっ」
さくら: 「止めて! ホープちゃんをそれ以上、傷つけないで。お願い」
さくらは、杖を足下に置き、抵抗の意志が無いことを示す。 小狼の前の 棺が開き、人の姿をした塊が出てくる。 壱予の注意が緩んだのか、次の瞬間、 ホープが強い力を放出する。 驚く壱予。 その隙をついて、ホープが逃げ去る。 瞬間、さくらは杖を拾い上げ構えるが、壱予は少しも慌てていなかった。
壱予: 「かかった!」 彼女の身体から、強い力が放出される。
さくらと小狼の足下から輝くリングが生み出されて、 二人の身体をくぐり抜けると、そこには、輪郭だけとなった 人の形が残る。 濾し取られた二人の存在は、いつの間にか地面に 空いていた虚空 (時間の穴) に、投げ込まれる。
暗黒の空間の中を落ち込んでゆくさくらと小狼は、形のない存在として太古に 向かって流されてゆく。 彼女の周囲には、多くの人たちが瞬く間に現れ、 消えてゆく。 都市が消え村が消えて、森が戻ってくる。
さくら: 「助けて。お兄ちゃん、ケロちゃん。 ユエさん。 お父さん...」
突然、彼女の周りに、光の輪が形成され、優しい声が聞こえる。
麗呼: 「しっかりして、未来のお嬢さん。 諦めちゃダメですよ。」
さくら: 「でも、私と小狼君はもう...」
麗呼: 「私の言うとおりにして。貴女の力を、貴女の時に残すのです」
さくら: 「ちから...」
さくらカードの魔法陣が現れて、輝き出す。その輝きは小狼とさくらを包み込む。
麗呼: 「その調子ですよ。 その力は、時と...」
さくら: 「時、替、盾。」
三枚のさくらカードが、主の元を離れ、瞬く間に時の彼方に消え去ってゆく。
夜の友枝丘陵の遺跡、強い結界力が張り巡らされている。 その中で、 「さくら」 の残した輪郭に、壱予の白い霊が入り込む。 やがて輪郭が 満たされると、黒い髪の少女が立ち上がる。 同じように、小狼の残した 輪郭にも別の霊が入り込むと、男の子が横たわっている。
壱予: 「大勇。よかったわ!」
だが、大勇は何も言わずに、歩き去る。 呆気にとられる壱予。 追いかける ことも思いつかない。 すると、時間の穴から現れ、実体化した 「タイム」 が、 さくらの封印の杖を目指して走る。
壱予: 「お、おのれーー!」
壱予の投げつけた力は、「シールド」 に阻まれる。 「タイム」 は 杖を持ち去り、仲間ともに小さな高台に消える。
壱予: 「あの人形か。 まあいいわ、すぐ見つけてやるから」
彼女の頭上には、日傘のかかった月が見える。
天宮総業の独身寮の知世の部屋...
知世: 「さあ、出来ましたわ。」
スケッチブックには、亜麻色の髪の女の子をモデルにした花嫁衣装。
知世: 「でも、壱予さんには似合いませんわね」
知世は、鉛筆で女の子の髪を塗りつぶす。 いささかも間違っていないという自信。
古代世界・邪国の崩壊した古墳建設現場では、人々が集まって、 運び出される亜麻色の少女を見守っている。
男: 「壱予様は、無事か?」
女: 「大丈夫よ。あたし達が泥から助け上げるまで...」
男: 「壱予様は鬼神じゃ。 あんなちっこい腕で大きな丸太を支えておった」
運び出される少女は泥にまみれているが、正しく 「さくら」 である。
一方、村はずれの一軒家では、少年が入口で倒れている。 その脇腹からは出血が続いている。
少年: 「さくら...」