作者: deko
古代日本、邪国、丘陵地帯に沿って竪穴式住居が点在している。 集落は 全体が掘り割りで囲まれており、中央には物見のやぐら。
一軒の住居、土間に草のムシロが敷かれ、深い裂傷を負った大勇が 寝かせられている。 魔術師外祖が、大勇の胸にかがみ込みながら 呪文を唱えている。 彼の周囲には魔法陣が輝いている。
外祖: 「ライフ!!」
カードが実体化する。 複雑に入り組んだ紋章がみえる。 カードは 大勇の頭上で静止する。 やがて魔法陣と同じ光に満たされ、心臓の鼓動の ように明滅を始める。
外祖: 「悪かったな。 未だお前には、生きててもらわなければならん。」
眩い光が大勇を包み込んで、切られた傷が瞬く間に結合してゆく。 血色が 戻り始める。 そして、目が開かれる。
21世紀の友枝町。 同じ丘陵地帯・ほとんど全てが住宅地となっているが、 一角のみ荒れ地である。
スーパーマーケット・食品売り場。 さくらと小狼が買い物に 来ている。 カートの中身は明日の朝食用。
さくら: 「ごめんね。付き合わせちゃって」
小狼: 「いいよ。それより、さっきの話だけど」
さくら: 「その、李家の人。ゲソさん?」 パック詰めの海鮮品を手に取っている。
小狼: 「イカじゃない!」
周囲の主婦たちがクスクス笑っている。
さくら: 「その人、ひょっとして...」
小狼: 「そのひょっとしてさ、従兄弟があのクロウだからかな。 同様に
かなりの変人だったらしい」
すっかり話し込んで、木之本家の前へ来ているのに 気付かない。 はっとなる小狼。 木之本家の玄関から桃矢が怖い目で見ている。
さくら: 「さ、いらっしゃい」 と、さくらは小狼を(強引に)玄関へ
引っ張ってゆく。
小狼: 「お、おい。いいのかよ」
玄関口では、無理矢理引っ張り込まれて、恐縮する小狼を睨み付ける桃矢。
小狼: 「あ、あのー」
桃矢: 「ああ(ため息)」
そこへ藤隆がやってきた。背広に身を包んでいる。
藤隆: 「お帰りなさい。 もうすぐいらっしゃいますよ」 と、小狼に気付く。
小狼は恥ずかしいのか、顔が赤い。 将来の花嫁の父に会うと 意識しているらしい。 玄関にあがるさくらから、買い物袋を受け取る藤隆。
藤隆: 「さくらさん。 今日いらっしゃるのは、あなたの
曾お爺さまです。やっと、あなたと私たちに会う決心が付いたと
連絡がありました。」
さくら: 「お爺さんが!! いつ、何時来るの?」
藤隆: 「もうすぐです。」 (そっと、娘を見つめながら) 「あなたは、
木之本さくらさんですね。」
桃矢: 「お爺さまに、みっともない姿見せるんじゃないぞ。 怪獣」
さくら: 「さくら、怪獣じゃないよ! (李君の驚き顔で、真っ赤な顔になる)」
完全に無視された小狼に対して、藤隆は招く。 「どうぞ、 お上がりください。 お久し振りですね」
部屋に戻って、さくらがベッドに並べられた、よそ行きの服を 前に考え込んでいる。 ベッドの上からホープとケロが見守っている。
ホープ: 「おねえちゃん、もう30分もあのまま。 代わり映えしないのに」
ケロ: 「女の子の身だしなみちゅうもんは...」 さくらの思い詰めた顔に、
ホープがケロの口をふさぐ。
さくら: 「ねえ、ケロちゃん。私って誰?」
ケロ: 「お爺ちゃんに逢うんやろ。」 飛行して、さくらの目の前にゆくと、
悩める乙女がいる。
ケロ: 「さくらはさくらや。カードキャプターで、さくらカードたちの
主でもあるけど、お父はんの娘や」
さくら: 「わたしは、さくら。 (藤隆お父さんの声が蘇る)うん!!」
決断したさくらは、もう一度中学校の制服を着て、部屋から出て行く。
居間では、小狼がソファでじっとしている。 しゃちこぼって、 借りてきたネコ同然。
桃矢: 「判っていたんだよ。お前たちが仲良くなるって」
小狼: 「それって... 予知...」
桃矢: 「ああ。悪いことに、内容は忘れないときやがる」
そこへ、玄関から呼び鈴が鳴る。
桃矢: 「さて、お出迎えと行こうか」
玄関のドアが開き、可愛い女の子が入ってくる。
知世: 「こんにちは」
さくらはびっくり仰天。 知世も中学校の制服である。 その後ろから 見えたのは、
園美: 「こんにちは。 木之本家の皆さん」 親子揃って挨拶。
ドアを大きく開いて、外の人物を招く。白髪の老人がゆっくりと階段を、 杖をついて登ってくる。 唖然とするさくらの脳裏に、4年前の夏の思い出が蘇る。
真嬉お爺さんとテニスをしているさくら。 机で一緒にお茶をいただいている時。 「レイン!!」 クロウカードを発動させる。 やがて、美しい虹が、 夏の別荘を包みこむ。
知世: 「あっ!」 知世の悲鳴に、はっとなる一同。
お爺さんの杖が滑り、よろける。 次の瞬間、さくらと小狼が入り口に降り、 疾風の早さで駆け寄って、老人を支える。 だが、中学生二人では お爺さんを支えきれない。 一緒に倒れかかる... と、背後から 桃矢が支える。 事なきを得て、ほっとする園美。 駆け寄る知世。
真嬉: 「ありがとう。私のひ孫たち」
さくら: 「ほえ? ひ孫たち?」 自分を取り巻く、みんなを見渡すさくら。
桃矢: 「俺たちさ。この坊や以外、みんなそうなんだ」
園美: 「さくらちゃん。 知世。 桃矢君。 あなた達の曾お爺さまですよ。」
唖然とするさくら。 知世を見ると、彼女も頷く。 と、お爺さんが二人の 制服に目を停める。
真嬉: 「(名札を読む)大道寺知世さん。 木之本さくらさん。 木之本桃矢君。 初めまして、天宮真嬉です。」
洗練された物腰で、優雅な挨拶。 と、知らない少年に気付く。
知世: 「さくらさんのボーイフレンドですわ。」
さくら: 「李 小狼君です。」
真嬉: 「ありがとう。小狼君」大きな手を差し伸べる。
小狼: 「は、初めまして」握手しながら、これ以上、
小さくなれないほど恐縮している。
藤隆: 「ようこそ。よくいらっしゃいました」
真嬉: 「うむ。撫子は良い家族をもったね。ありがとう」
さくらの部屋。 さくらと、小狼、知世が入ってくる。お茶一式を持っている。
さくら: 「びっくりしちゃった。あたしたち、親戚だったんだ。」
知世: 「小学校のとき、転入なされた時から知ってました。 でも、母の手前も
あって言えませんでした。」
ケロ: 「人の絆とは不思議なもんやなあ」 と、言いつつ、
小狼に用意されたケーキを強奪する。
さくら: 「ケロちゃん! (すでにあきらめている) 李君、私のあげる。」
小狼: 「いいよ、相変わらず...」
ホープ: 「食い意地張ってる! この食いしん坊。」 ドロップキックが
ケロに炸裂する。
宙を舞ったケーキを掴まえようとするケロを、足蹴にして華麗なる ホープちゃんの跳躍。 だけど、空中でさくらに捕まってしまう。 ケーキは なぜか知世の掌に着地。
知世: 「まあ、あたしの作ったお人形に...」
小狼: 「『無』のカードか! 今は 『希望』 だって聞いたけど。」
こういう時のさくらは、本当に怖い! 小さくなっているホープに頷く。 部屋の中に、 巨大な魔法陣が輝く。 ホープの身体が輝き、お人形からカードが分離する。
さくら: 「見て、この子本当にすごいんだよ。」
小狼: 「ほんとうだ。さくらカードも、厚さに多少に変化はあったけど、
これは4倍も厚いぞ。」
知世: 「だから、本に入れなかったんですのね。」
ホープ: 「(知世に)可愛い身体をありがとうございます。
あの... 今度は、空飛びたいので羽根を。」
知世: 「はい、喜んで!」
古代日本・邪国。 古墳の建設現場。 大勢の人夫が働いている。 盛り土を 背負った人々が順番に運んでいる。 高位の人物に案内されている、老年の女性。
麗呼: 「順調に進んではいるようですね。」
高官: 「はい、女王様。」 と、女王の視線を遮ろうとする。 だが、
彼女は高官を振りほどく。
集落の端に向かって葬列が進んでいる。 小さな女の子が先頭。
麗呼: 「先の戦いで死んだ者ですね。」
高官: 「小競り合いです。 死んだのはあの者だけでした。 狗国も
そろそろ痺れを切らしたようですな。」
麗呼: 愚か者! その狗国を一番恐れているのに、いたずらに大きな墓なぞ
造って何になる。 このばばあに、死んでまで国を治めろというのか。
高官: 「壱予さまですが、困ったものですな。 女王様の縁者なればこそ...」
その時、何かに感応した麗呼。 はっと、振り向くと古墳建設現場の支柱が 次々に傾き出す。 逃げ出すたち人夫たち。 監督たちが押し止めようとするが、 地盤がめくり上がる。 次々に出来る裂け目に呑まれる人夫たち。
高官 「女王様! 壱予様が!」
集落から女たちが、建設現場に駆けつけていく。 その先頭には少女 (壱予) が いる。 その女たちに向かって、盛り土が流れ下る。
集落はずれの一軒家で、入り口の柱にすがって、賢明に立とうと している大勇。 彼の視線の向こうに、崩壊する古墳が見える。
大勇: 「い...よ...」 柱の根元に崩れる。 脇の下からは血が流れている。
邪国の上空には、輝くカードが発生する魔法陣に座って、李外祖がもう一枚の カードに対して魔法を使っている。 さくらカードの 「地」 によく似た カードである。
外祖: 「早く来い。 早く来ないと俺は狗奈に殺されちまう。 我が血縁の者よ、 早く気づけ!!」
21世紀の友枝町・木之本家の前。 大道寺家の車に乗り込む真嬉。 窓の外では さくらや小狼が見送る。
真嬉: 「お休み。 さくらさん」
さくら: 「お休みなさい。お爺さま。」
知世: 「また、明日。 今日は危なかったですわね(笑い)」
走り去る車を見送る一同。
桃矢: 「怪獣には、でーかい目覚ましがいる。 な?」
いつの間にか、小狼とさくらは夜道を歩いている。 とても幸せそうな二人。
藤隆: 「将来の義弟にまかせなさい。」
桃矢: 「夏の発掘。 お爺さまの会社に絡んでとは知りませんでした。」
藤隆: 「おもしろい地形ですよ。二人とも参加すると言っていたし。 楽しい
夏休みになりそうですね」
夜道、寄り添いながら歩いている、さくらと小狼。
さくら: 「きれい!」
頭上には美しい天の川が流れている。 見惚れるさくら。 傍らの小狼が 見惚れているのは...
夏の日差しの中、友枝丘陵では、学生たちが測量を行っている。 器械を 持った女子学生が、足元下何かに気付く。 桃矢の高校時代の級友、 中川容子である。
容子: 「ねえ、月城君。 こっち来て!」
桃矢と、雪兎がやってくる。 足元から小さな破片を拾い上げる。
桃矢: 「矢尻だな。」
雪兎: 「争いの舞台か...」