作者: deko
朝、初夏の爽やかな風が入り込んできている。 美しい朝が やってきた。 木之本家の朝は... 「ほえええええええーーーーーー」 で 始まる。
さくら 「遅刻。遅刻」 目一杯焦りまくって着替えに奮闘中。
髪をとかしてからベッド上のお人形に 「おはよう、ホープちゃん」 と朝の挨拶。
お人形が大きなあくびをするのを観て優しい微笑み。
ホープ「おはよう。おねえちゃん」と、だっこを求める仕草。
ホープ(知世のくれた人形)を赤子のように抱きしめると、机の上にあった
さくらカードの本が開いて、中のカードたちが次々にさくらと
ホープを取り囲むように舞う。
さくら 「おはよう。カードさんたち」
そこへ、机の引き出しからケロが目を覚ましてくる。
ケロ 「仲がいいのはええけど。時間は無いで」
さくら 「ほえーーーーーーーーーーーーーー」
二階から階段を驀進するさくら。
ケロ 「中学生か。予想どおりに寝坊は治らんな」 と、枕が投げつけられる。
ケロ 「なにさらすんや!」 ホープちゃんが怒っている。
ホープ 「おねえちゃんの悪口許さない」
ケロ 「やるか!」
ホープ 「やる!!」 どこかで鳴ったゴングの鐘。
食堂では一家の朝食。
藤隆 「はい、どうぞ」 ご飯をよそってくれる。 反対側の兄の苦笑。
さくら 「何。お兄ちゃん」 と言いつつも、速いピッチで口へ箸を運ぶ。
桃矢 「怪獣の胃袋はすごいなあ。そのわりに、横の広がりが少ないけど」
ふんと、鼻で笑うさくら。が、足はしっかりと攻撃... 失敗。 ふくれっ面でお味噌汁に八つ当たりのさくら。 箸を置いて、 席を立つ。「行ってきます!」いつもの習慣どおりに、撫子の写真にも 挨拶する。 と、藤隆が慌てて呼び止める。
藤隆 「今日は大切なお客様がいらっしゃいます。5時には
帰っていてくださいね。」
さくら 「お客様?」
藤隆 「はい!とても」
さくらがいなくなって、桃矢「今日なんですね。」ええと頷く藤隆
桃矢 「あいつ、女の子らしくなってきましたね」
藤隆 「あの方も、ご存じですよ」
席を立つ桃矢。 新聞を見て 「今日か。 そう、今日はあのガキも来る」
洗い物をしていた藤隆。 「えっ?」
桃矢 「何でもありません。 俺、先に現場に入ってますから」
藤隆。 洗い物を終えて、写真の撫子に、「今日がその日なんですよ。撫子さん」
友枝町内、町内の中を小走りに走っているさくら。 小さな交差点を 通りすぎようとして、急に引き留められる。
小狼 「危ないじゃないか!」 乗用車が、減速しようともしないで通りすぎてゆく。
さくら 「はい、ありが・・」 言葉が続かない。
李小狼がいた。 さくらとお揃いの中学校の制服に身を包んでいる。
さくら 「小狼君。」 とても信じられない。 呆けたような顔をしている。
やがて、解ったらしい。
小狼 「中国での手続きが終わったんだ。 これからは、ここが俺の国なんだ」
さくら 「ずっと、ここにいるの?」 目尻に涙が浮かんでくる。
さくら 「もう、手紙や電話で我慢しなくてもいいのね」
小狼 「ああ、」 そっと、さくらを抱きしめる。
時間を止める二人だけの抱擁。 この時、二人は周囲の全てから離れている。
偉望 「あのーー」
はっとなって、慌てて身を離す二人。 これ以上は赤くなれないほど
真っ赤な顔である。
偉望 「お急ぎになりませんと、お二人仲良く遅刻でございます」
さくら 「ほえーーー!」
小狼 「急ごう!!」
手を繋いで爆走していく二人を、微笑んで見守る偉望さん。
友枝中学校の教室。 小学校時代からの面々が揃っている。 HR の開始を告げる チャイムが鳴る。 入ってきたのは浅香先生。 図太い眼鏡を掛けている 小太りの男。
浅香 「今日は転校生を紹介する。 といっても、」 一同を見て 「諸君らに とっては旧友だな」
さくらの隣の席で、知世がうれしそうに美声を
張り上げる。 「お帰りなさい。李君」 先を越された
さくら (コケる) 「と、知世ちゃん知ってたの」
知世 「はい。苺鈴さんから、メールが今朝届きました」 期せずして、みんなの拍手。
気の毒な小狼。小さくなってしまい、自己紹介も出来ない。そこへ、追い打ち。
浅香 「席は、木之本君の後ろだったな。」 えっと驚く生徒たち。 浅香 「寺田先生からの申し送りだ」
みんなの祝福を受けて、いつもの席に向かう小狼。 そして、
いつもの席の前はさくら。
さくら「また一緒ね」卒倒寸前の小狼。あらん限りの力を振り絞って着席。
木之本家・さくらの部屋。 轟音をあげて走るレーシングカー。
ケロ 「うりゃうりゃーーっ」 気合いとともにゲームパッドを 叩きつけるように操作している。 なかなかの運転である。 が、後ろから もっとすごい運転の車が猛スピードで追いかけてくる。 ホープちゃんの 運転である。 ものすごい乱暴運転。 併走するパトカーを なぎ倒し、払いのける様は神業的。
ケロ 「オエーー」 と必死に逃げにかかるが、やがて、ケロの車は TV 画面の 中いとも簡単に、追い越される。 レーシングカーはクラッシュしてひっくり返り、 ケロも同様にひっくり返る。 目を回しているケロを尻目に、ホープちゃんの 大勝利 「やったーー。あたいの勝ち」
二人の後ろで観戦していたカードたち。まことに静かな一日である。
さくらの教室。 浅香先生が黒板に 「夏休みのレポート提出。 友枝丘陵の 発掘または自由研究」
浅香 「今年の夏、友枝丘陵で弥生時代の発掘調査があるらしい。 発掘作業の
ボランティアを募集する。 だが、自分なりの好きな題材が在れば自由研究でもいいぞ。」
小狼 「発掘って考古学のか?」
知世 「隣町の大きな会社が社屋移転のために、発掘するのだそうですわ。」
利佳 「さくらちゃんのお父さんの専門ね」
さくら 「うん」
そこへ、山崎君の介入。 顔を隠す千春ちゃん 「また始まった」
山崎 「知っている? 考古学ってもとは宝探しだったんだよ。」
奈緒子 「うん、知っている。もとはギリシア・ローマ時代の彫刻から
始まったんだよね」
浅香 「ほーう、じゃ説明してくれないか。 山崎君」
山崎 「はい。 もともとはルネッサンス時代のローマの大金持ちが、
ポンペイという遺跡から掘り出された彫刻に魅了されて、すさまじい
コレクターに走ったのが始まりでした。」
「ところが、あまりにも趣味が高じてしまって、お金が無くなってしまったのです。」
小狼 「それで、どうしたんだ」
山崎 「元お金持ちは、借金を返すためにそれまで集めた彫刻を
王様に譲ることになったんだ。 でも、少しでも高く売りたいので、
由緒正しい皇帝や王族の所有だったと嘘をついたんだ」
クラス全員が注目している。様々な反応。
山崎 「そして翌日に彫刻を引き渡すことが決まった夜。」
さくら 「夜。」 何となく怖い状況を察知した。 席を立ち、後ろの李君の
後ろに回って椅子越しにしがみつき、震えてしまう。
山崎 「ローマの町全体が、その金持ちの家から出る恐ろしい叫び声に
恐れおののいたのだ」
堂々と小狼にしがみついているさくら。 微笑みの知世。 奈緒子は
メモしている。
山崎 「翌朝、金持ちの家は完全に壊され、一族郎党生きている者は
いなかった。 そして、庭先には血に染まった彫刻が... そう、彫刻たちの
呪いが行われたのです。 我らの尊厳を汚す無かれ...」
さくら、中学生にもなってもやはり、怖いものは怖い。 李君の腕の中に
逃げ込んでいる。 その李君も歯がガチガチ震えている。 浅香先生は
いいもの見たという顔。
知世 「落ち着いて、さくらさん。嘘ですよ」
同時に、千春にアッパーカットを喰らった山崎の倒れる音。 続けて、
コブラツイストの連続技炸裂。
さくらと小狼 「えっ!嘘。」
利佳 「二人の純真さは変わらないのね」
浅香 「そんな、迷信を打破するために様々な手法で、考古学は
発展してきた。 考古学とは、今の自分が人間の営みの中において、
どこにあるかを探る学問なのだ。」
HR の終了をつげるチャイムが鳴る。
さくらカード 「希望」 については諸説在りますが、私の独断と偏見で 彼女の役割と性格設定を行わせていただきました。 淺香先生はアニメの 監督淺香守生さんがモデルです。
m(_ _)m deko